2021年2月27日土曜日

阪東幸成「アメリカの竹竿職人たち」

 


 今回からバンブーロッド関連の書籍を紹介したいと思います。第1回目はフライの雑誌社から発行された阪東幸成さんの「アメリカの竹竿職人たち」です。

 発行されたのは1999年ですが、この本をきっかけに日本で空前のバンブーロッド・ブームが起こったといっても過言ではないと思います。この本を読んで、アメリカのバンブーロッド・ビルダーにバンブーロッドを注文された方も多いと思います。私もこの本を予約購入した数年度に、マリオ・ウジニッキとボブ・サマーズに直接竿を注文しました。

 この本は当時アメリカに赴任中の阪東さんが、14人のビルダーの工房を実際に訪問し(ゲーリー・ハウエルズのみ訪問を断られたため電話インタビュー)、その体験を1冊にまとめたものです。この本以前にもアメリカではバンブーロッドの書籍が何冊も発売されていましたが、この本では収録された各ビルダーとの対話を通じて、そのビルダーの性格や人となりを浮き彫りにしているところが、非常にユニークな点で、それまで名前を知っていても謎に包まれていたビルダーが実在する1人の人間として、何を考え、どんな思いで竿を作っているのかを知ることができます。まるで自分がその場に居合わせているかのようなライブ感覚が本当に素晴らしく、読者はぐいぐいと引き込まれてゆきます。
 また、そのビルダーのバックグランドに関連して、レナード、ペイン、ウィンストンといったアメリカのバンブーロッド・メーカーの歴史にも触れています。

 阪東さんはプロのライターではありませんが、文章も大変面白く、むしろいちバンブーロッド・ファンの視点で書かれているのが、この本を面白くしている要因の1つだと思います。また、写真の素晴らしさも特筆すべきものがあります。

 ただ1つ残念なのは、この本では竿の外観上の特徴や構造については触れられていますが、その竿のアクションや性能に関する記述はほとんどなく、どんな性格の竿なのかはこの本を読んでも良く分かりません。バンブーロッドは自分で実際にキャストしてみないと、本当のところは分からないですし、竿のアクションの好みは人それぞれですので、阪東さんもそのあたりは敢て書かなかったのかもしれません。

 この本が発行されてから20年以上経ちましたが、この本に収録された14人のビルダーのうち、既に亡くなったり、リタイヤしたビルダーもいますし、当時若手であったマリオ・ウジニッキやペア・ブランディンも既にかなりの高齢になっています。本の最後に各ビルダーの作例とともに竿の価格が掲載されていますが、現在の価格に比べると非常に安価であったことにも驚かされます。

 残念ながらこの本は随分昔に絶版となってしまいましたが、日本語で書かれたバンブーロッドの本としては、間違いなく歴史に残る名著であり、この本を読んだことのないフライ・フィッシャーマンのために、フライの雑誌社には是非再版を希望します。

 阪東さんは数年前に自身で「ふらい人書房」という出版社を興され、昨年12月に日本の竹竿職人に焦点を当てた「MOSTRY BAMBOO」という書籍を発行されました。この本についても、今後紹介したいと思います。

2021年2月20日土曜日

沢田賢一郎「究極のフライフィッシング 達人の世界」

 


 今回も沢田賢一郎氏の著作、「達人の世界」を紹介します。

 この本は1993年に発刊されたものです。以前紹介した沢田氏の「フライキャスティングテクニック」同様、この頃になると沢田氏は自社から書籍やビデオを発売するようになっており、この本も自社の発行所である「TULCHAN BOOKS」から発行されています。

 この本は、いかにもアンチ沢田派の方が毛嫌いするようなタイトルのため、アンチの方は決して手にする本ではないと思いますが、内容はいたって客観的かつ常識的なものです。
 前回紹介した「渓流のドライ・フライ・テクニック」では、渓流のドライ・フライフィッシングに特化して書かれたものですが、この本はフライ・フィッシング全般について、重要な技術、ノウハウ、コツが、沢田氏特有の語り口で書かれています。

 沢田氏の文章は非常に簡潔で分かりやすく断定的です。この断定的な語り口も、アンチの方が沢田氏を嫌う理由の一つなのかもしれませんが、経験に基づいた論理的なものなので、説得力があります。「渓流のドライ・フライ・テクニック」同様、目から鱗の落ちる内容が数多く収録されています。

 この本もサワダがなくなってしまった今となっては、新品で入手することはできません。写真が少なく文章がほとんどの本ですが、あっという間に読み切ることができますし、読み物としても面白い本だと思います。

2021年2月13日土曜日

沢田賢一郎「渓流のドライ・フライ・テクニック」

 


 今回は沢田賢一郎氏の「渓流のドライ・フライ・テクニック」を紹介します。

 この本は1986年に山と渓谷社から発行されたものです。沢田氏というとウェット・フライのイメージが強く、その関連の書籍を数多く執筆されていますが、この本を読むと氏がドライ・フライの釣りにおいても卓越した技術と経験をお持ちであることが良く分かります。

 本の内容は、タックルからキャスティング、季節や釣り場に応じた釣り方、釣行記と、渓流のドライ・フライの釣りに関し一通り網羅されたものになっています。この本の中で沢田氏はナチュラル・ドリフトとプレゼンテーションの重要性、それを実現するためのキャスティングの重要性を強調しています。

 この本が発行された後、80年代の終わり頃から、ロングリーダー・ティペットの釣りが流行り始め、雑誌も書籍もビデオも渓流のドライ・フライの釣りというと、ライトラインのロングリーダー・ティペット一辺倒になってゆきました。しかし、この本ではナチュラル・ドリフトをロングリーダー・ティペットではなく、プレゼンテーション技術、キャスティング技術で実現することを説いています。
 そのため、ティペットはフライのサイズに応じて十分コントロール可能な太さと長さのものを使用する必要があるとしています。また、フライロッドについても、日本の渓流のドライ・フライの釣りでは、7フィート6インチ、5番の竿が最も汎用的であり、5番、6番ラインでソフトなプレゼンテーションが出来ないという釣り人は、キャスティング自体に問題があると書いています。

 それ以外にも、フライの選び方や1投目の重要性、合わせなど、あまり雑誌や他の書籍で書かれていない非常に基本的なことが沢田氏独特の語り口で書かれており、非常に参考になります。

 紹介されているフライ・パターンに関しては、ほとんどがイギリスのものやそれを基にした沢田氏のオリジナルです。氏の巻くドライ・フライはウェット・フライやサーモン・フライ同様、大変美しいのですが、スペントウィングのものが多いのでフライ・パターンに関しては、私はあまり参考にしませんでした。

 沢田氏はプロショップサワダのオーナーであり、自社ブランドのタックルを販売されていたので、この本で紹介されているタックルも自社ブランドやサワダが代理店を務めていたペゾン・エ・ミッシェルだったりします。そこがアンチ沢田派の方が沢田氏を嫌う理由の1つかもしれませんが、この本には、沢田氏が多くの経験を積み重ねて辿り着いたと推測される、目から鱗が落ちる内容が数多く散りばめられており、渓流のドライ・フィッシングの教科書として、極めて優れた本だと思います。

 この本も残念ながら既に廃刊となっており、新品で入手することはできませんが、自分の渓流のドライ・フライの釣りを基本に戻って見直してみたいとお考えの方に是非お勧めしたい本です。

2021年2月6日土曜日

シェリダン・アンダーソン、田渕義雄「フライフィッシング教書」

 


 今回はシェリダン・アンダーソンと昨年亡くなられた田渕義雄さんの共著、「フライフィッシング教書」を紹介します。

 私がこの本を入手したのは1991年ですが、その時点で既に18刷でしたので、日本のフライフィッシングの入門書としては異例の大ベスト・セラーだと思います。初版が1979年ですので、私よりも少し上の世代の方にはおなじみの本ではないでしょうか。

 この本はシェリダン・アンダーソンの「CARTIS CREEK MANIFESTO(カーティス・クリーク宣言書)」を田渕義雄さんが翻訳した第1部と、田渕義雄さん著の「日本のカーティス・クリークのために」と題した第2部、「わがカーティス・クリークのほとりで」と題した第3部からなります。
 第1部は、シェリダン・アンダーソンのユーモアにあふれたイラスト中心の初心者向けの入門書で、必要最小限の内容となっています。全くの初心者にとっては、一度に多くの情報を得ても理解できないので、このくらいの内容がちょうど良いのかもしれません。日本の釣りに合わない部分や、専門用語については、田渕さんが注釈を入れています。

 第2部は、第1部で足りない部分を補う形で、日本の釣りに合わせたタックルからキャスティング、釣り方、フライ・タイイングまで、かなり詳しい入門書となっています。
 第3部は田渕さんの釣行記です。
 
 1979年に発刊された古い本ですので、その内容、特にタックルや釣り場に関する情報は、ノスタルジックなものになっていますが、基本的な技術については今でも十分通用する内容です。むしろ2000年以降にフライ・フィッシングを始めた方にとっては、フライ・フィッシングの基本を学びなおすのにちょうど良いのではないかと思います。

 この本は現在品切れで入手できなくなっていますが、出版元の晶文社のウェブ・サイトには掲載されていますので、絶版にはなっていないようです。フライフィッシングの偉大な入門書として、今後も版を重ねて出版され続けるものと思います。

2021年1月30日土曜日

F.ソーヤー「伝説の鱒釣り師 フランク・ソーヤ―の生涯」

 


 前回、リッツの「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」を紹介しましたので、今回はリッツとも親交のあったフランク・ソーヤ―の「伝説の鱒釣り師 フランク・ソーヤ―の生涯」を紹介します。

 この本の原題は「Man of the Riverside」で1984年に発行されたようです。邦題のとおり、イギリスのエイボン川のリバー・キーパーに生涯をささげたソーヤーの少年期から亡くなるまでを、ソーヤーの著作物を中心にS.ヴァインズがまとめたものです。「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」から引用されたリッツの文章も含まれています。

 ニンフ・フィッシングやソーヤー・ニンフのタイイングについても収録されていますが、川辺の生き物やリバー・キーパーとしての活動に多くのページが割かれており、ソーヤーが少年時代から優れた観察眼を持っていたことや、水生昆虫や魚類の研究者としても大変優れていたことが大変よく分かります。
 BBCで釣りを生中継した時の面白い話も収録も収録されています。

 ソーヤーの著作物は、同じく日本語訳が発行されていた「イギリスの鱒釣り師」も読みましたが、今回紹介した本の方が内容的にも面白く、日本語訳も読みやすいと思います。

 私は渓流では基本的にドライ・フライの釣りしかしませんが、この本を読んでソーヤー流のサイト・ニンフ・フィッシングを試していた時期があります。この釣りは鱒が流れに定位しているのを目視できないと釣りにならないので、釣り場や状況は制限されるのですが、ニンフがフィーディング・レーンに乗るように、ニンフの沈下速度を計算に入れてキャスティングし、鱒の動きを見て合わせる釣りは、上手くフッキングまで持ちこめた時の喜びはひとしおです。
 フェザント・テールを始めとするソーヤー・ニンフは、モデルとする水生昆虫の形状と生態を的確にとらえてディフォルメしているとともに、機能的にもネザーエイボンスタイルと呼ばれるソーヤーのニンフ・フィッシングに最も使いやすいようにデザインされています。

 私が所有している本は文庫本版で、こちらは絶版になっているようですが、単行本は今でも入手可能なようです。フライフィッシングの本としてだけでなく、読み物としてもお勧めの本です。

2021年1月23日土曜日

シャルル・リッツ「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」

 


 前回沢田賢一郎氏のフライキャスティングの本を紹介しましたので、今回は沢田賢一郎氏がキャスティングの指導を受けた、シャルル・リッツの「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」について書きたいと思います。

 この本は言うまでもなく、フライフィッシング関連の書籍として世界で最も有名なもののうちの1冊で、フライ・フィッシングのバイブルと言っても過言ではありません。1970年代、1980年代にこの釣りを始めた多くの方は読まれているかと思います。
 私が所有しているものは、1984年にティムコから初版が発行された日本語翻訳版の第3版で、1997年に発行されたものです。このティムコの翻訳版は1972年に出版された最後の改定第4版を翻訳したもので、この改定であの有名なハイ・スピ―ド/ハイ・ライン(以下HS/HL)に関する項が追加されています。
 シャルル・リッツと言えば、HS/HLであり、ペゾン・エ・ミッシェルのバンブーロッドです。

 この本に収録されている内容は、キャスティング技術だけでなく、フライロッドやグレーリング、鱒の釣り方、世界中の釣り師との釣りの思い出など、フライフィッシング全般に関わるものですが、この本を有名にしているのは、やはりHS/HLを中心としたフライキャスティングの技術と、リッツがPPP(Puissane Pendulaire Progressive)と名付けたパラボリック・アクションのバンブーロッドに関する記述だと思います。

 HS/HLテクニックは、1960年代の初めににリッツがアメリカ西海岸のトーナメント・キャスターであるジョン・タランティーノらとの交流により構築したものですが、現代においては何も特別なものではなく、誰もが行っているキャスティングのスタイルです。
 日本では、リッツから沢田賢一郎氏、さらにそのお弟子さんたちへと継承された所謂沢田派のキャスティングスタイルと、ジョン・タランティーノからジム・グリーンやメル・クリーガー、更にスティーブ・レイジェフ、日本では東知憲さんへ継承されたサンフランシスコ派のキャスティングスタイルは、別の流派の様にとらえられていますが、そのルーツは同じであり、つまり現代のフライキャスティングの基本は同じであるという点が面白いところです。

 この本のもう一つの目玉である、パラボリックアクションのバンブーロッドに関しては、ペゾンのPPPを代表する名竿ファリオ・クラブのあの有名な誕生秘話、自転車でロッドティップを追ったことで偶然生まれたという話は、実はこの本には載っていません。

 ちなみにパラボリックアクションというと、曲がりの起点が負荷によらず変わらないロッドアクションとよく言われており、この本にもそのようなことが書かれています。しかし、パラボリックアクションの代表であるファリオ・クラブは、軽負荷からバットが曲がりはじめるというパラボリックアクションの特徴を持っていますが、曲がりの起点は負荷に応じて移動しますので、ペゾンの竿の中では比較的プログレッシブアクションに近い竿と言えると思います。
 フライロッドにはテーパーがついているので、曲がりの起点が全く移動しない竿というのは力学的にありえず、私はそのような竿を見たことがありません。パラボリックアクションは、低負荷で曲がりの起点がティップに近いところからでなく、よりバット側から始まり、負荷を増した時に曲がりの起点の移動距離が相対的に少ないアクションというのが、正確な定義だと考えます。

 この本には多くのモノクロの写真が掲載されており、その中でもリッツがショートロッドで信じられない長さのロングキャストをしている写真は特に印象深いものです。アーノルド・ギングリッチ、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・タランティーノ、ピエール・クルーズヴォー、レフティ・クレイ、フランク・ソーヤといった今や伝説の人物の写真も掲載されていますし、世界中の釣り場の風景も載っています。

 今敢てHS/HLの理論や技術を学ぶ必要はありませんが、フライキャスティングのメカニズムやフライロッドに興味のある方には、非常に有益な本ですし、フライフィッシングの歴史の一旦に触れる意味でも、読んでおいて損はないと思います。
 この本の日本語版は、2016年に未知谷から新訳の改訂版が発売されており、現在も入手
可能です。

2021年1月16日土曜日

沢田賢一郎「フライキャスティングテクニック」

 


 今回もフライキャスティングの本の紹介です。沢田賢一郎氏の「フライキャスティングテクニック」です。

 古くからこの釣りをされている方には言うまでもありませんが、沢田賢一郎氏は日本のフライフィッシング界を聡明期から開拓、牽引されてきた大御所で、フライキャスティングの指導者としてだけでなく、フライタイヤ―としても世界的に著名な方です。
 2000年代くらいまでは、氏の指導を受けたフライキャスターの方(その多くはフライショップの店主)が数多く活躍されており、これらの方の指導を受けた方も多くおられると思います。

 沢田氏や氏のお弟子さんのキャスティングスタイルは、前回までに紹介したサンフランシスコ派を始めとする多くのフライフィッシャーが行っているスリークウォーター気味のそれとは異なり、ロッドを地面に対し垂直に立て、脇を閉めて振るもので、その画一的なスタイルを嫌うアンチの方もおられるようですが、オリジナルの沢田氏のそれは、お弟子さんのそれに比べ、意外にもリラックスした自然体のものです。

 この本は第1部基礎編と第2部応用編の2部構成となっており、第1部はフライキャスティングのメカニズムと本質を分かりやすく解説した第1章「フライキャスティングとは何か」に始まり、ウェットフライ・キャスティング(ピックアップ・アンド・レイダウンキャスト)、フォルスキャスト、プレゼンテーション、シングルホール、ダブルホールと順を追って、豊富なカラー写真とともに理論的な解説が非常に理解しやすい表現でなされています。
 第2部の応用編では、ロングキャストやロッドのアクションに応じたリストワーク、ループの形のコントロール、シューティングヘッドの投げ方、キャスティングのバリエーション、バンブーロッドのキャスティングまで、フライキャスティングに関する一通りの解説がなされており、初心者から上級者まで満足できる内容になっています。

 この本には同じタイトルのビデオ版もあり、内容はほぼこの本に沿ったものとなっていました。私はこの本と同じく、ビデオも何度も繰り返し視聴しました。これらは沢田氏が代表を務める株式会社サワダから発売されたものであり、残念ながら今はもうその会社自身が無くなってしまいましたので、これらを新品で入手することはできません。

 私は所謂沢田派ではないのですが、氏のキャスティングとキャスティングから生まれるループは大変美しく、この本の中には他のフライキャスティングの本には書かれていない目から鱗の内容やヒントが数多く含まれていますので、日本人が書いたキャスティングの教書としては、やはり大変優れた本だと思います。

2021年1月9日土曜日

東知憲「CONTROLLED FLY CASTING」

 

 前回のブログでは、メル・クリーガーの「エッセンス・オブ・フライキャスティング」について書きましたが、今回はその本の翻訳者であるとともに、メル・クリーガーと長年親交があり、氏の弟子とも言える東知憲さんの「コントロールド・フライ・キャスティング」を紹介します。

 「エッセンス・オブ・フライキャスティング」は初心者から上級者まで幅広い読者層を対象に書かれているのに対して、この本はフライキャスティングの上達を目指す中上級者向けに書かれています。そのため、理想的、効率的フライキャスティングに不可欠なロッドティップが直線軌跡を描くにはどうすれば良いかを中心に個々の技術要素について理論的に解説しています。

 東さんはこの本の中で自身が述べているように、ジム・グリーン、メル・クリーガー、スティーブ・レイジェフといった、所謂サンフランシスコ派のキャスターの一人なので、この本で解説している内容もそのキャスティング・スタイルがベースになっています。メル・クリーガーが「エッセンス・オブ・キャスティング」で展開している理論を更に詳しく解説した本と言えます。

 文章を読んでフライキャスティングを理解するのは難しく、特にこの本は以前に紹介した2冊に比べるとなかなか難解な内容になっていますが、「エッセンス・オブ・フライキャスティング」以上に多用された写真が、理解の手助けになっていると思います。

 初心者や、頭で理解するよりは体で覚える主義の方には向きませんが、この本は現在でも入手可能ですので、フライキャスティングの技術を更にレベルアップしたいと考えている方でキャスティングのメカニズムを理論的に理解したい方には良い本だと思います。

2021年1月3日日曜日

Mel Krieger ’The Essence of Flycasting’

 


 前回はジム・グリーンのキャスティング教書を紹介しましたので、今回はアメリカ西海岸繋がりということで、メル・クリーガーの「エッセンス オブ フライキャスティング」を紹介します。

 ジム・グリーン「フライ・キャスティング」が、初めてフライロッドを手にする全くの初心者を対象として書かれているのに対し、メル・クリーガーのこの本は初心者だけでなく、上級者が読んでも十分役に立つように意識して書かれています。
 それは、まず第1章が「The Mechanics of Flycasting(フライキャスティングの力学)」から始まっていることからも伺えます。また、第6章の「The Application of Power(力の入れ方)」ではテーリング・ループのできるメカニズムやロッドの曲げる位置を変えるにはどうすればよいのか、第7章の「The Fly Rod」ではロッドアクションの違いにより、キャスティングストロークをどのように変えれば良いのかといった、ある程度キャスティングができるようになった中級者が直面する課題、あるいは上級者であれば経験的に習得している技術を理論的に解説しています。

 フライキャスティングを文章と写真でレクチャーするのは非常に難しいので、メル・クリーガーはフライキャスティングの力学、メカニズムを最初に解説することにより、読者にフライキャスティングの原理原則を理解してもらおうとしたのではないかと推測します。

 それ以外の内容としては、グリップの握り方から始まり、ピックアップ・アンド・レイダウンキャスト、フォルスキャスト、シューティングという基本的なキャスティングから、ダブル・ホール、各種のトリックキャストまで網羅されているので、まさに本のタイトル通り、フライキャスティングのエッセンスが1冊に凝縮された本と言えます。

 この本の英語版のオリジナルは1987年に出版され、日本版は東知憲氏の翻訳で1995年につり人社から出版されています。

 実は日本ではこの本が出版される前に、この本のビデオ版が同じくつり人社から発売されていました。ビデオ版はⅠの基礎編とⅡの応用編の2本に分かれており、概ね本の内容に沿ったものでしたが、基礎編では得に初心者を飽きさせないように、実際の釣りの場面が挿入されていたり、応用編ではジム・グリーン、スティーブ・レイジェフといったゲストが登場していました。基礎編は特に秀逸で、美しい景色の中での釣りとキャスティングのシーンとBGMの調和が非常に印象的で、単なるキャスティングの教則ビデオを素晴らしい越えた作品でした。私も日本での発売順に、まずビデオを購入しましたが、このビデオは本当に何度も何度も繰り返し視聴しました。是非つり人社にはDVD版を再販して欲しいと思います。

 この本は残念ながら絶版となっているようですが、英語版の本とDVDはメル・クリーガーの奥さんのファニー・クリーガーが運営しているKriegerFlyFishing.comから購入できるようです。日本語版も同ウェブ・サイトによると、ファニー・クリーガーに問い合わせれば購入できるようです。

2020年12月26日土曜日

ジム・グリーン「フライ・キャスティング 基礎編」

 


 今回から私のお気に入りの本を紹介したいと思います。初回はジム・グリーンの「フライ・キャスティング 基礎編」です。

 初版は1971年と大変古い本ですが、フライ・キャスティングの入門書として現代でも十分通用する名著であり、1970年代、1980年代にフライを始めたベテランの方で、この本でフライ・キャスティングを学ばれた方は多いと思います。
 日本ではティムコが翻訳版を発売しており、初版は昭和47年(1972年)ですので、アメリカで発行された翌年にはもう日本で発売されていたことになります。
 ちなみにティムコがフェンウィックの製品の輸入を開始したのは、1971年だそうです。

 この本は私が高校に入学する前の春休み(1983年)にフライ・フィッシングを始めるにあたり、タックル一式と一緒に購入したものです。私が初めて購入したフライ専門の書籍でもあります。この本を片手に、河川敷や稲刈りが終わった田んぼで、試行錯誤しながらキャスティングの練習に励んだのを懐かしく思い出します。


 ジム・グリーンはフェンウィックの黄金期である1960年代、1970年代に同社でチーフ・デザイナーを務めており、トーナメントキャスターとしても有名です。そのため、この本に書かれているキャスティング・スタイルも、西海岸のトーナメントキャスターが行っていたショート・ストロークのキャスティングで、現代でも十分に通用するものです。
 この本の中でジム・グリーンはバック・キャスト、フォワード・キャストのストロークの最後でしっかりと竿を止めることの重要性を繰り返し説いています。

 この本の面白い点であり優れた点は、まずフライ・キャスティングとルアー・キャスティングの違いから始まり、バット・セクションだけを使ってグリップの握り方と基本的なストロークの解説、ラインを通して芝生の上でのキャスティングと、順を追って読者に語りかえるように解説している点です。しかも初めてフライ・キャスティングを行う初心者が陥りそうな失敗が、まるでその場で見ているかのように記述してあり、都度立ち止まって注意点を述べています。読者はこの本を片手にキャスティング練習を実践することにより、まるでジム・グリーンの個人レッスンを受けているように、キャスティングを学ぶことができます。
 この本には写真が一切なく、文字とイラストでフライ・キャスティングを解説しているのですが、先に述べたような内容となっているため、初心者にとって非常に分かりやすいものになっています。

 ラインの長さの違いやロッド・アクションの違いによってキャスティング・ストロークを変化させることなど、この本で述べられていないこともありますが、フライ・ロッドを初めて手にする初心者が最初に読む本としては十分な内容であり、現代においても最も優れた初心者向けのフライ・キャスティング教書だと思います。

 この本には、対象魚や釣り場に応じたフライ・ラインの選択も記載されており、それは竿の性能が向上した現代においては、ヘビーすぎるものとなっていますので、そこは注意する必要があります。

 この本は今でも購入できますし、価格も非常に安く、読み物としても面白いので、初心者の方だけでなく、初心者にフライ・キャスティングを教える立場にある方、基本に戻って自分のキャスティングを見直してみたい方、フライ・キャスティングそのものに関心のある方にもお勧めです。

2020年12月20日日曜日

Hardy reproduction reels(その5)Perfect special model spit fire


 ハーディ復刻版リールの最終回は、パーフェクト・スペシャルモデル・スピット・ファイアを紹介します。

 このリールは、2003年に発売されたもので、1930年代のパーフェクトをスピット・ファイア仕様で再現したものです。オールド・パーフェクトには、黒鉛塗装(ブラック・レッド・フィニッシュ)が施されていましたが、第二次世界大戦中の一時期、無塗装のパーフェクトが生産されていました。当時のハーディは航空機の部品を作っていたため、この無塗装のパーフェクトには、イギリス軍の戦闘機スピット・ファイアの機体に使われているジュラルミンが使用されているとの噂が広まり、スピット・ファイアと呼ばれるようになったそうです。しかし、これは単なる噂に過ぎず、実際に使われていた材料はそれ以前のパーフェクトと同じであったようです。


 本物のスピット・ファイアはリール本体も含め全て未塗装でしたが、このリールはハンドルの着いているフェイスとスプールが無塗装で、本体は黒の塗装となっています。この色の組み合わせは、1905年から1939年に販売されていたスペシャル・パーフェクトという、フェイスよりも大きなスプールとフレームを持つパーフェクトに使用されていたものです。


 2003年に発売されたパーフェクト・スペシャルモデルには、2 7/8インチと3 1/8インチの2つのモデルがあり、ともに右手巻きのみが販売されました。
 チェック機構はデュプリケイティッド・マークⅡチェック、フットはアルミのリブ・フット、ラインガードはグレイの瑪瑙リングでした。


 このリールも大変美しいリールで、他の復刻版リール同様にハーディの職人が丁寧に手作りで仕上げた手の込んだ素晴らしいリールでした。ブラス・フェイスのパーフェクトに比べると軽量で、現代のバンブーロッドに組み合わせて使用しても許容できる重量で、サイズ的にも2 7/8インチは4番ライン、3 1/8インチは5番ラインで使用するのにぴったりでした。

 私は両方のサイズを所有していましたが、右手巻きと言う点がネックとなり、他の復刻版リールと同様、結局は1度も使用することなく手放すことになりました。