2021年2月27日土曜日

阪東幸成「アメリカの竹竿職人たち」

 


 今回からバンブーロッド関連の書籍を紹介したいと思います。第1回目はフライの雑誌社から発行された阪東幸成さんの「アメリカの竹竿職人たち」です。

 発行されたのは1999年ですが、この本をきっかけに日本で空前のバンブーロッド・ブームが起こったといっても過言ではないと思います。この本を読んで、アメリカのバンブーロッド・ビルダーにバンブーロッドを注文された方も多いと思います。私もこの本を予約購入した数年度に、マリオ・ウジニッキとボブ・サマーズに直接竿を注文しました。

 この本は当時アメリカに赴任中の阪東さんが、14人のビルダーの工房を実際に訪問し(ゲーリー・ハウエルズのみ訪問を断られたため電話インタビュー)、その体験を1冊にまとめたものです。この本以前にもアメリカではバンブーロッドの書籍が何冊も発売されていましたが、この本では収録された各ビルダーとの対話を通じて、そのビルダーの性格や人となりを浮き彫りにしているところが、非常にユニークな点で、それまで名前を知っていても謎に包まれていたビルダーが実在する1人の人間として、何を考え、どんな思いで竿を作っているのかを知ることができます。まるで自分がその場に居合わせているかのようなライブ感覚が本当に素晴らしく、読者はぐいぐいと引き込まれてゆきます。
 また、そのビルダーのバックグランドに関連して、レナード、ペイン、ウィンストンといったアメリカのバンブーロッド・メーカーの歴史にも触れています。

 阪東さんはプロのライターではありませんが、文章も大変面白く、むしろいちバンブーロッド・ファンの視点で書かれているのが、この本を面白くしている要因の1つだと思います。また、写真の素晴らしさも特筆すべきものがあります。

 ただ1つ残念なのは、この本では竿の外観上の特徴や構造については触れられていますが、その竿のアクションや性能に関する記述はほとんどなく、どんな性格の竿なのかはこの本を読んでも良く分かりません。バンブーロッドは自分で実際にキャストしてみないと、本当のところは分からないですし、竿のアクションの好みは人それぞれですので、阪東さんもそのあたりは敢て書かなかったのかもしれません。

 この本が発行されてから20年以上経ちましたが、この本に収録された14人のビルダーのうち、既に亡くなったり、リタイヤしたビルダーもいますし、当時若手であったマリオ・ウジニッキやペア・ブランディンも既にかなりの高齢になっています。本の最後に各ビルダーの作例とともに竿の価格が掲載されていますが、現在の価格に比べると非常に安価であったことにも驚かされます。

 残念ながらこの本は随分昔に絶版となってしまいましたが、日本語で書かれたバンブーロッドの本としては、間違いなく歴史に残る名著であり、この本を読んだことのないフライ・フィッシャーマンのために、フライの雑誌社には是非再版を希望します。

 阪東さんは数年前に自身で「ふらい人書房」という出版社を興され、昨年12月に日本の竹竿職人に焦点を当てた「MOSTRY BAMBOO」という書籍を発行されました。この本についても、今後紹介したいと思います。

2021年2月20日土曜日

沢田賢一郎「究極のフライフィッシング 達人の世界」

 


 今回も沢田賢一郎氏の著作、「達人の世界」を紹介します。

 この本は1993年に発刊されたものです。以前紹介した沢田氏の「フライキャスティングテクニック」同様、この頃になると沢田氏は自社から書籍やビデオを発売するようになっており、この本も自社の発行所である「TULCHAN BOOKS」から発行されています。

 この本は、いかにもアンチ沢田派の方が毛嫌いするようなタイトルのため、アンチの方は決して手にする本ではないと思いますが、内容はいたって客観的かつ常識的なものです。
 前回紹介した「渓流のドライ・フライ・テクニック」では、渓流のドライ・フライフィッシングに特化して書かれたものですが、この本はフライ・フィッシング全般について、重要な技術、ノウハウ、コツが、沢田氏特有の語り口で書かれています。

 沢田氏の文章は非常に簡潔で分かりやすく断定的です。この断定的な語り口も、アンチの方が沢田氏を嫌う理由の一つなのかもしれませんが、経験に基づいた論理的なものなので、説得力があります。「渓流のドライ・フライ・テクニック」同様、目から鱗の落ちる内容が数多く収録されています。

 この本もサワダがなくなってしまった今となっては、新品で入手することはできません。写真が少なく文章がほとんどの本ですが、あっという間に読み切ることができますし、読み物としても面白い本だと思います。

2021年2月13日土曜日

沢田賢一郎「渓流のドライ・フライ・テクニック」

 


 今回は沢田賢一郎氏の「渓流のドライ・フライ・テクニック」を紹介します。

 この本は1986年に山と渓谷社から発行されたものです。沢田氏というとウェット・フライのイメージが強く、その関連の書籍を数多く執筆されていますが、この本を読むと氏がドライ・フライの釣りにおいても卓越した技術と経験をお持ちであることが良く分かります。

 本の内容は、タックルからキャスティング、季節や釣り場に応じた釣り方、釣行記と、渓流のドライ・フライの釣りに関し一通り網羅されたものになっています。この本の中で沢田氏はナチュラル・ドリフトとプレゼンテーションの重要性、それを実現するためのキャスティングの重要性を強調しています。

 この本が発行された後、80年代の終わり頃から、ロングリーダー・ティペットの釣りが流行り始め、雑誌も書籍もビデオも渓流のドライ・フライの釣りというと、ライトラインのロングリーダー・ティペット一辺倒になってゆきました。しかし、この本ではナチュラル・ドリフトをロングリーダー・ティペットではなく、プレゼンテーション技術、キャスティング技術で実現することを説いています。
 そのため、ティペットはフライのサイズに応じて十分コントロール可能な太さと長さのものを使用する必要があるとしています。また、フライロッドについても、日本の渓流のドライ・フライの釣りでは、7フィート6インチ、5番の竿が最も汎用的であり、5番、6番ラインでソフトなプレゼンテーションが出来ないという釣り人は、キャスティング自体に問題があると書いています。

 それ以外にも、フライの選び方や1投目の重要性、合わせなど、あまり雑誌や他の書籍で書かれていない非常に基本的なことが沢田氏独特の語り口で書かれており、非常に参考になります。

 紹介されているフライ・パターンに関しては、ほとんどがイギリスのものやそれを基にした沢田氏のオリジナルです。氏の巻くドライ・フライはウェット・フライやサーモン・フライ同様、大変美しいのですが、スペントウィングのものが多いのでフライ・パターンに関しては、私はあまり参考にしませんでした。

 沢田氏はプロショップサワダのオーナーであり、自社ブランドのタックルを販売されていたので、この本で紹介されているタックルも自社ブランドやサワダが代理店を務めていたペゾン・エ・ミッシェルだったりします。そこがアンチ沢田派の方が沢田氏を嫌う理由の1つかもしれませんが、この本には、沢田氏が多くの経験を積み重ねて辿り着いたと推測される、目から鱗が落ちる内容が数多く散りばめられており、渓流のドライ・フィッシングの教科書として、極めて優れた本だと思います。

 この本も残念ながら既に廃刊となっており、新品で入手することはできませんが、自分の渓流のドライ・フライの釣りを基本に戻って見直してみたいとお考えの方に是非お勧めしたい本です。

2021年2月6日土曜日

シェリダン・アンダーソン、田渕義雄「フライフィッシング教書」

 


 今回はシェリダン・アンダーソンと昨年亡くなられた田渕義雄さんの共著、「フライフィッシング教書」を紹介します。

 私がこの本を入手したのは1991年ですが、その時点で既に18刷でしたので、日本のフライフィッシングの入門書としては異例の大ベスト・セラーだと思います。初版が1979年ですので、私よりも少し上の世代の方にはおなじみの本ではないでしょうか。

 この本はシェリダン・アンダーソンの「CARTIS CREEK MANIFESTO(カーティス・クリーク宣言書)」を田渕義雄さんが翻訳した第1部と、田渕義雄さん著の「日本のカーティス・クリークのために」と題した第2部、「わがカーティス・クリークのほとりで」と題した第3部からなります。
 第1部は、シェリダン・アンダーソンのユーモアにあふれたイラスト中心の初心者向けの入門書で、必要最小限の内容となっています。全くの初心者にとっては、一度に多くの情報を得ても理解できないので、このくらいの内容がちょうど良いのかもしれません。日本の釣りに合わない部分や、専門用語については、田渕さんが注釈を入れています。

 第2部は、第1部で足りない部分を補う形で、日本の釣りに合わせたタックルからキャスティング、釣り方、フライ・タイイングまで、かなり詳しい入門書となっています。
 第3部は田渕さんの釣行記です。
 
 1979年に発刊された古い本ですので、その内容、特にタックルや釣り場に関する情報は、ノスタルジックなものになっていますが、基本的な技術については今でも十分通用する内容です。むしろ2000年以降にフライ・フィッシングを始めた方にとっては、フライ・フィッシングの基本を学びなおすのにちょうど良いのではないかと思います。

 この本は現在品切れで入手できなくなっていますが、出版元の晶文社のウェブ・サイトには掲載されていますので、絶版にはなっていないようです。フライフィッシングの偉大な入門書として、今後も版を重ねて出版され続けるものと思います。