2021年7月31日土曜日

Paul Schmookler and Ingrid V. Sils 'Rare and Unusual Fly Tying Materials : A Natural History Volume 2 - Birds and Mammals

 


 今回はフライ関連の書籍の中から、シュムクラー・アンド・シルズの「Rare and Unusual Fly Tying Materials : A Natural History Volume 2」を紹介します。

 この本は1997年に発行された所謂コレクター本として大変有名な書籍で、発売当時も高価でしたが、今もプレミアム価格で大変高値で取引されている本です。特にサーモン・フライやウェット・フライのタイヤ―にとっては、バイブル的な本といっても過言ではないとおもいます。
 オールカラーのB4版に近い大判サイズの大変立派な重たい本で、とにかくマテリアルや美しいフライの写真が圧巻です。基本的な構成は、フライのマテリアルについて、まずその動物の絵と説明があり、そのマテリアルを使った代表的なフライが紹介されています。ワシントン条約で入手が困難あるいは不可能になっているマテリアルが沢山紹介されています。

 この本は、鳥類編のVol.1とVol.1に載せきれなかった鳥類と哺乳類を掲載したVol.2の2部構成になっており、私は所有しているのはVol.2のみです。
 私はサーモン・フライは巻かないので、Vol.1は安く入手できるチャンスがあれば欲しい程度ですが、このVol.2では鳥類の最後に「The History of Breeding Poultry for Fly Tying in America」、「Modern Hackle Production」と題した鶏の羽根の特集があり、そこにハリー・ダービーやヒーバート、キーオ、ホフマン、ホワイティングなどの素晴らしいハックルが沢山掲載されており、それが私がこの書籍を購入した理由の1つになっています。特にヒーバートの各種ダンカラーの4ページにわたるハックルのコレクションは目を見張ります。
 また、38、39ページには見開きで、アート・フリックのタイイング・スタイルで巻かれた美しい24本のキャッツキル・スタイル・ドライ・フライが紹介されており、このページだけでも価値があります。

 この本の6割以上を占める哺乳類のページは、紹介されているフライはウェットフライやストリーマーが多いのですが、エルクやムース、カウといったドライフライで良く使われるマテリアルでは、これらのマテリアルを使ったウェスタン・パターンのフライも掲載されています。

 フライとそのマテリアルに関する書籍として、恐らく質、量ともにこの本以上のものはなかったでしょうし、これからの出てこないのではないかと思います。フライ・フィッシング愛好家の中でも本当にごく一部のマニアのための本であると言えますが、間違いなく、フライ・フィッシングの歴史に残る1冊だと思います。


2021年7月24日土曜日

DAVE HUGHES 'TROUT FLIES'


 今回もフライに関する書籍ということで、デイブ・ヒューズの「トラウト・フライズ」を紹介します。

 筆者のデイブ・ヒューズはアメリカの著名なアウトドア・ライターですが、日本では昔からフライ・フィッシングをされている方であれば、「アングリング」や「フライの雑誌」に記事を書かれていた谷昌子さんの旦那様として記憶されている方が多いのではないかと思います。日本にゆかりの深いかたなので、日本の渓流でも何回も釣りをされています。

 この本は副題が「The Tier's Reference」となっているように、500本近くの鱒用のフライの写真とマテリアルが紹介されています。470ページにもおよぶ大作です。

 フライの紹介は、鱒が何を食べているのか分からない、あるいはその日の鱒の着いているポイントを探す場合に用いる「Searching Flies for Trout」と、特定の水生昆虫や捕食対象物を模した「Flies for Trout Food Forms」の2つの章に分かれています。
 それぞれの章では、代表的なフライのタイイング手順に加えそのフライのバリエーションが紹介されていますので、ある程度フライ・タイイングの経験のある人であれば、紹介されている全てのフライを巻くことができるようになっています。

 フライは全て筆者のデイブ・ヒューズが巻いたもので、有名なプロフェッショナル・タイヤ―が巻いたフライに比べると、美しさの点では劣りますが、いかにも実践派のフライ・フィッシャーが巻いたフライといった雰囲気が漂っています。
 流石にこれだけのフライを巻くのは大変だったようで、確か「フライの雑誌」の連載だったかと思いますが、筆者がこの本を完成されるのに大変な労力を払ったことを谷昌子さんが書かれていたのを読んだ記憶があります。

 アメリカで使われているポピュラーなトラウト・フライが、ドライフライだけでなく、ニンフ、ウェットフライ、ミッジ、ドラゴンフライ、テレストリアル、スカッド、リーチまで網羅されていますので、新しい釣り場や自分の持っているフライでどうにもならなかった時など、フライのバリエーションを増やしたい場合に、辞書のように使える本です。

 日本では最新のフライ・パターンばかりが重視され、昔からあるフライ・パターンは軽視される傾向がありますが、この本ではモダンなフライ・パターンも掲載されていますが、どちらかというと昔からあるフライ・パターンが中心です。おそらくこれがアメリカのフライ・フィッシングの実情なのだと思いますし、日本でも昔からあるフライ・パターンの実力にもっと目を向けるべきだと思います。

 この本は1999年に発行されたものですが、Amazonで今でも購入できます。

2021年7月17日土曜日

MIKE VALLA 'THE FOUNDING FLIES'

 

 今回も前回と同じマイク・ヴァラの書籍、「ザ・ファンディング・フライズ」を紹介します。

 前回紹介した「タイイング・キャッツキル・スタイル・ドライフライズ」は、キャッツキル・スタイル・ドライフライとそのタイヤ―に特化した本でしたが、今回の本はキャッツキル・タイヤ―を含むアメリカの43人の伝説的なフライ・タイヤ―とそのフライに焦点を当てた内容になっています。
 今では古典となった誰もが知っているフライがどんなフライ・タイヤ―によって生み出されたのか、そのフライ・タイヤ―がどのような人物であったのかが、そのタイヤ―自身が巻いた多くのフライの写真とともに紹介されています。
 もちろんフライは、ドライ・フライに限らず、ウェット・フライ、ストリーマー、ニンフ、バス・バグも含まれています。非常に沢山のフライが掲載されており、誰でも知っているフライだけでなく、初めて見るフライも多く載っていますので、写真を眺めているだけでも十分楽しく、大変参考になります。

 この本ではアメリカのフライ・パターンの中でも古典的なパターンとその創始者が紹介されており、デイブ・フィットロックが一番若手といった具合ですから、70年代以降に生み出されたウェスタン・フライやマッチ・ザ・ハッチのフライなどのフライとその作者は紹介されていません。

 この本は2013年に発売された新しい本で、Amazonでも新品が購入できます。前回紹介した「タイイング・キャッツキル・スタイル・ドライフライズ」よりもマニアックな本ですが、歴史的なアメリカのフライ・パターンとその作者についてより深く知りたいマニアの方には、これ以上の本はないと思いますし、原点に返って自分の知らない古典的なフライ・パターンを見つけたい方にも大変参考になると思います。

2021年7月10日土曜日

MIKE VALLA 'TYING Catskill-Style DRY FLIES'

 

 今回は、私が大好きなキャッツキル・スタイル・ドライフライに関する書籍、その名もずばり「タイイング・キャッツキル・スタイル・ドライフライズ」を紹介します。

 この本は2009年に発刊された比較的新しい本です。キャッツキル・スタイル・ドライフライのタイイング方法だけでなく、キャッツキル・スタイル・ドライフライの簡単な歴史に始まり、これらのフライが生まれたニューヨーク州キャッツキル山地の河川とその川にちなんだ代表的なフライの紹介、初期のキャッツキル・タイヤ―と釣り人の紹介に4割近くのページが割かれており、キャッツキル・スタイル・ドライフライの全てが網羅された本となっています。

 タイイングのページは、マテリアルとツールの紹介、キャッツキル・スタイル・ドライフライの特徴である、ウッドダッグのフランク・フェザーを使ったバンチウイングと、ダッグクイル・ウイングのタイイング方法が、個々のフライのタイイング方法の前に紹介されており、充実した内容になっています。
 フライのタイイングは、クイル・ゴードン、レッド・クイル、マーチ・ブラウンといった代表的な11のフライのタイイング方法が写真を使って解説されています。

 本の最後に、現代のキャッツキル・タイヤ―とフライの紹介のページがあるのも、この本の特徴です。

 そして何より、セオドア・ゴードン、ウォルト・デット、ハリー・ダービー、アート・フリックなどの伝説のキャッツキル・タイヤ―本人が巻いたフライの写真が沢山掲載されているので、これだけでも大変価値があると思います。

 この本は未だAmazonで新品が購入できるようですし、電子書籍でも購入できますので、キャッツキル・スタイル・ドライフライのお好きな方には大変お勧めの1冊です。

2021年7月3日土曜日

E. Garrison & H. B. Carmichael 'A Master's Guide To Building A Bamboo Fly Rod'

 


 今回はギャリソン&カーマイケルの「ア・マスターズ・ガイド・トゥ・ビルディング・ア バンブー・フライ・ロッド」を紹介します。

 この本は、これまでに発行されたバンブーロッド・ビルディングの解説書の中で、世界で最も有名な書籍であり、特に日本のバンブー・ロッド・ビルダーに最も大きな影響を与えた1冊だと思います。
 バンブーロッド・ビルディングの工程が、竹の選び方に始まり、リールシート金具、フェルールの作り方、果てはアルミケースや竿袋の作り方まで、豊富な写真と図を交えて詳細に解説されています。バンブーロッドの修理の方法まで記載されています。
 ギャリソンとカーマイケルの共著になっていますが、最後に載っている「六角竿の理論」以外の文章は、ギャリソンの弟子であるカーマイケルによって書かれたものです。

 ギャリソンの最も大きな功績は、ビベラーやミリングマシンなどの機械が必要なため、それまで企業や企業出身のバンブーロッド・ビルダーがほとんどであったバンブーロッド・ビルディングの世界に、プレーニング・フォームを使ったハンド・プレーンの手法を詳細に解説したこの本によって、多くの個人のプロ・ビルダー、アマチュア・ビルダーを誕生させたことだと思います。

 もう一つの大きな功績は、それまで経験と試行錯誤に頼っていたロッド・テーパーの設計を、「ストレス・カーブ」によりロッドアクションを定量化し、計算で算出可能にしたことです。
 「ストレス・カーブ」は簡単に説明すると、ロッド・ティップから一定の動的な負荷がかかった時(一定の加速度でキャスティングのストロークを行っている状態)に、ガイドやバーニッシュ、フェルールの重量も含めた竿の自重とラインの重量により、竿のティップから5インチ毎の各点に、どれだけの負荷(ストレス)が掛かるかを示したものです。

 ギャリソンのテーパー設計の手法では、ストレス・カーブさえ描けば、後は本に書いてある方法に従って計算することにより、自動的にテーパーが求まるようになっています。しかし、この本にはギャリソンのいくつかのモデルのストレス・カーブは紹介されていますが、肝心のどのようにストレス・カーブを描くかについての記述がありません。
 しかし、この本に書いてあるストレス・カーブからテーパーを算出する方法を逆算することにより、テーパーからストレス・カーブを計算することができます。
 私はExcelを使って、ストレス・カーブからテーパーを求める計算シートと、テーパーからストレス・カーブを求める計算シートを作成し、自分の所有する竿のテーパーを計測しストレス・カーブを求めることにより、ロッド・アクションとストレス・カーブの関係について理解を深めました。また、インターネット上では、銘竿と呼ばれるバンブーロッドのテーパーやストレス・カーブが公開されています。

 ギャリソンの手法においても、ストレス・カーブの設計に経験と試行錯誤が必要ですが、ロッド・テーパーの僅かな違いが、ストレス・カーブでは大きな違いとして表れてきますので、ロッド・テーパーよりもストレス・カーブの方が、その竿の持つアクションを理解しやすいと思います。また、ストレス・カーブを見れば、その竿に部分的に弱い箇所や強い箇所がないかどうかも良く分かります。
 また、ある程度経験が必要だと思いますが、同じアクションで番手や長さの違う竿、例えばヤングのパーフェクショニストを3番仕様にするといったことも可能です。

 今はインターネットで沢山の情報が入手できますし、この本を読んだことのないビルダーの方も増えていると思いますが、間違いなくバンブーロッドの歴史に残る1冊だと思います。