2020年3月28日土曜日

SMITH Marryat MR(その3)MR7.5


 マリエットMRの3回目は、MR7.5を紹介します。

 MR7.5はMRシリーズの中で小さい方から2番目のサイズのリールです。直径はハーディーのフェザーウェイトと同じ73mmです。日本の渓流で使用するのにちょうど良いサイズです。フェザーウェイトよりも若干ワイドスプールなので、スペック上ではWF-7Fまで巻けることになっています。私はDT-4FとWF-4Fを巻いて使用しています。


 前回のブログで紹介したように、MRシリーズに共通のローラークラッチを使用したディスクドラグを装備しています。私は渓流魚を釣るのであれば、クリックドラグで十分だと思っていますが、滑り出しも滑らかなので、細いティペットとミッジフライで大きな鱒を狙う場合やドラグを使ってやり取りをするのに向いています。
 ディスクドラグを装備したリールとしては、99g(カタログ値)と軽量な点も魅力です。


 カラーは、マリエットMRシリーズ共通のゴールド、ブラウン、ブラックの3色です。ゴールドとブラウンは落ち着いたなかなか良い色だと思いますが、私の経験ではやや個体差があるようで、スペアスプールを購入したら本体と色の濃さが若干違うということがあります。つや消しのブラックは精悍な印象でこれも良いと思います。

 マリエットMRシリースの塗装はアルマイト処理なので、ぶつけたりして塗装が剥がれると、結構目立ちます。これはマリエットMRに限ったことではなく、バーストック削り出し+アルマイト処理のリールに共通して言えることです。
 昔のハーディーのライトウェイトシリーズやマーキス、オービスのCFOなどは、傷がついたり、塗装が薄くなってきても、それがかえって味になるのですが、そこがマリエットMRの唯一の弱点かもしれません。

2020年3月21日土曜日

SMITH Marryat MR(その2)


 マリエットMRの2回目は、ドラグ機構について書きたいと思います。出来るだけ分かりやすく書きたいと思いますが、機械的なことに興味のない方は、流して読んでいただければと思います。

 マリエットMRの優れた点として、美しいデザイン、ディスクドラグ装備なのに非常に軽量であること、高い加工精度などが挙げられますが、私はその独自のディスクドラグ機構に魅力を感じます。

 フライリールのディスクドラグは、コルクやカーボン、樹脂などの平板ディスク(プレート)を押し付けるタイプのものと、金属のブレーキドラムをシューで挟み込むタイプの2種類が主に使われています。マリエットMRは、ボグダンのサーモン、スチールヘッドリールと同じく後者のタイプを使用しています。スミスはディスク・ブレーキと呼んでいますが、ドラム・ブレーキと言った方が正解かもしれません。


 上の写真は、マリエットMRのスプールを外すと見ることができるドラグ機構です。中央の円い部品がブレーキドラムで、その左右を挟み込んでいる白い樹脂のパーツがブレーキシューです。シューを支えているアームは、リール裏面のノブを回すとカムにより写真の上下方向に動くようになっており、ブレーキドラムへの押し付け力が変わるようになっています。このあたりのメカニズムは、ボグダンと基本的に同じです。

 ディスクドラグには、正転(巻き取り)時はスプールがドラグ機構から切り離されて自由に回転し、逆転時はスプールがドラグ機構に繋がるようにするクラッチ機構が必要です。


 マリエットMRは、ブレーキドラムの内側にクラッチ機構が内蔵されており、ブレーキドラムのカバーを外すと上の写真のクラッチ機構が現れます。ローラーと板バネを使った所謂ワン・ウェイ・クラッチになっています。

 3個のローラーが接している穴の開いた部品が、クラッチホイールという部品で、スプールに取り付けられたピンがこの穴に入ることによって、スプールがクラッチホイールに固定されます。正転時は3個のローラーが回転できるようになっており、クラッチホイールに固定されたスプールはブレーキドラムの中でローラーを介して回転しますが、逆転時はローラーが回転できないようになっており、ローラーとクラッチホイールとの間の摩擦力でクラッチホイール/スプールとブレーキドラムとが固定され、ブレーキシューとの摩擦でスプールの回転にブレーキがかかるようになっています。
 巻き手方向は、板バネとローラーの位置を左右反対にすることによって変更することができます。

 発売当時のマリエットMRは、クラッチにボグダンと同じく歯車と爪を使ったラチェットが使われていました。


 クラッチホイールの下には、クリック音を発生させるためのギアがあり、出荷時は巻き取り時は無音、逆転時にクリック音が出るようにセッティングされてますが、変更することが可能です。
 上の写真で見えているギアはクラッチプレートに固定されるようになっているギアで、このギアの下にブレーキドラムに固定されたギアが隠れています。ギアの左側に小さな爪が見えていますが、爪は段付きになっています。上の写真では爪がブレーキドラムに固定されたギアと接触するようになっているため、逆転時にクリック音が出るセッティングになっています。爪の上下をひっくり返すと、爪がクラッチプレートに固定されたギアと噛み合うので、正転時にクリック音が出ます。爪を取り外してしまえば、正転、逆転どちらも無音になります。

 私も一度正転時にクリック音が出るように変更しようとしたことがありますが、ギアの噛み合いが微妙で音が出たり出なかったりするので、出荷時の逆転時クリック音のセッティングで使っています。

 ブレーキドラムには、カバーがついていますが、完全に密閉されている訳ではないので、砂などの異物が入り込んでしまうと、トラブルの原因になります。また、ブレーキドラムはアルミ合金製なので、メンテナンス時などに傷をつけてしまうと、正常に動作しなくなる可能性があります。左右の巻き手方向を変更するには、分解する必要があるので、少し面倒です。
 後になって発売されたマリエットCMRというリールでは、これらの問題を解決するために、ローラークラッチが内蔵されたブレーキドラムが密閉式になっており、ブレーキドラムをひっくり返すだけで、巻き手方向を変更できるように改良されていました。

 マリエットMRのドラグは、リール本体裏面のノブを回すことにより、最小から最大まで半回転(180度)で無段階に調整することができます。最小はミッジフライを細いティペットで使用する際に十分使える弱さですし、最大は淡水魚を相手にするのであれば十分な強さだと思います。


2020年3月14日土曜日

SMITH Marryat MR(その1)


 今回から4回かけて、スミスのマリエットMRシリーズについて書きたいと思います。

 マリエットMRは1978年に発売された大変歴史のあるリールです。ハーディーのマーキスやオービスのCFOと同じくアウトスプールタイプの片軸受けタイプで、非常にスムースなディスクドラグ(ドラムドラグと言った方が正解かもしれませんが・・・)を装備したリールです。


 当時の国産フライリールは、ハーディーやオービスのリールをコピーしたものが多かったのですが、マリエットMRは同時期に発売されたサセックスのリールとともに、国産オリジナルフライリールの先駆けと言えます。特にマリエットMRはその美しいデザインと高い品質、オリジナルのディスクドラグ機構といった点で、ハーディーやオービスと肩を並べることができた国産で初めてのリールと言ってよいと思います。

 実際にこのリールは、かつてアメリカやイギリスのフライショップで発売されていましたし、トーマス&トーマスがカタログに掲載して販売していた時期もありました。


 発売当初は、スプールに穴が開いているタイプと開いていないタイプの2種類が発売されていましたが、長い歴史の中で穴が開いているタイプのみとなりました。また、発売当初のカラーは、ゴールドとブラウン(当時のカタログではブラックと呼ばれていました)でしたが、その後つや消しのブラックが追加されました。

 サイズは直径68mmのMR-7から82mmのMR-9までの5つがあり、渓流から湖、ソルトウォーターまで対応できる幅広いラインナップが揃っていました。


 マリエットMRは、ハーディーのライトウェイト・シリーズ、マーキス・シリーズ、オービスのCFOと同じく、歴史的な銘品といっても良いと私は思うのですが、ラージ・アーバー化の流れに勝てず、随分前に製造中止になってしまったようです。
 一時期、このリールがヤフオクや楽天、量販釣具店の店頭で、激安で在庫処分されていたのを記憶されている方も多いと思います。スミスのウェブ・サイトやカタログには未だ掲載されているのですが、どうも小売店とスミスの在庫のみとなっているようです。

 オービスのカタログからCFOの名前が消え、ハーディーのライトウェイトシリーズ、マーキスは、昔の面影は残っているもののオリジナルとは別物となり、長くフライフィッシングを愛好してきた者としては、少し寂しさを感じざるを得ません。


2020年3月7日土曜日

Danielsson Midge


 今回はダニエルソンのミッジを紹介します。

 ダニエルソンと言うよりも、ループと言った方が長くフライフィッシングをされている方にはなじみがあるかも知れません。
 スウェーデンのダニエルソン社は、ループのOEMでリールを作っていましたが、ループがリール製造を韓国のメーカーに移したため、自らのブランドでリール販売を行うようになりました。ループのミッジとダニエルソンのミッジはブランド名が違うのと、リールフットの付け根の形状が異なるだけで、全く同じリールです。ループのリールは、昔セージブランドでも販売されていました。


 ループ(ダニエルソン)のこのタイプのリールは、ラージアーバーリールの元祖で、フライリールの歴史の中でもエポック・メーキングなリールと言えます。
 現在でもほとんどのフライリールは、片軸受けではスプール中心を貫通、両軸受けではスプールに固定もしくは一体化したシャフトが存在しますが、このリールにはシャフトが存在せず、スプールの内側を3つのローラーが支える構造になっています。


 ローラーを支えるパーツの中心にあるノブを回転すると、ローラーをスプールに押し付ける強さが変わり、スプールの逆転にブレーキをかける強さが変わりますが、正転方向も同じ強さのブレーキがかかるので、ドラグ機構として使用することはできません。
 このリールを使って魚とやりとりをする際は、巻き取りに支障のない強さにローラーの押し付け力を調整しておいて、スプールを手で触ってブレーキを掛けるあるいは、ロッドハンドでラインを保持し、魚の引きに合わせて保持力を変えてラインを送りだすことになります。
 滑り出しは非常にスムースなので、細いティペットを使って鱒を相手にするには非常に良いと思います。


 ダニエルソンのこのタイプのリールは、オリジナルシリーズと呼ばれており、ミッジはその中で最小のリールです。私はDT-2Fを巻いてアーキストリアルの2番ロッドで使用しています。
 私のアーキストリアルの2番ロッドには、昔のベリンジャーのアップロックタイプのスライドバンドリールシートが付いているのですが、リールフットが薄いリールしか装着することができず、アーキストリアル代表の羽田さんに相談したところ、推奨されたのがループ(ダニエルソン)のミッジでした。

 このブログを書くために、ダニエルソンのウェブサイトを調べたところ、ミッジはいつの間にか廃番となっていました。現代のフライリールは、ディスクドラグを装備したものが主流となり、ダニエルソンにもそのようなラインナップがありますので、ミッジ以外のオリジナルシリーズのリールが製造終了となる日も近いかもしれません。