2018年8月25日土曜日

Orvis(その1)Far & Fine


 今回はオービスのグラファイトロッド、ファー&ファイン、7フィート9インチ、5番を紹介します。

 今の日本では、アメリカのロッドメーカーの中ではオービスよりもスコットやウィンストン、セージの方が人気があるようですが、1980年代のオービスは、日本で圧倒的な人気を誇り、私にとっても憧れのブランドでした。
 オービスが1970年代の終わりにグラファイトロッドを発売した当時は、「オービス グラファイト」という1種類のシリーズしかなく、ファー&ファインはその中のモデルの1つです。「オービス グラファイト」シリーズは、その後「スーパーファイン」シリーズと呼び名を変えることになります。


 ファー&ファインは当時のカタログでは、オービスのフライフィッシングスクールで使用されており、その名の通り「離れたところから繊細に」、小規模な河川でドライフライを使って鱒を釣るための竿と紹介されていました。
 5番ロッドで繊細な釣りと聞くと疑問に思われる方も多いと思いますが、ファー&ファインが発売された当時のアメリカでは、トラウトロッドというと6番が主流でしたし、オービスのグラファイトは、当時のライバルでハイモデュラスグラファイトを使ったティップアクションを売りにしていたフェンウィック(HMGシリーズ)と正反対に、ローモデュラスグラファイトを使ったフル・フレックスアクション(ロッド全体が弧を描くアクション)を宣伝文句に使っており、当時のグラファイトロッドの中では繊細な竿だったと言えます。


 オリジナルのオービス グラファイトシリーズの中には、「ブルックトラウト」のように、小さな負荷でもバットから大きく曲がる、バットアクションの竿もありますが、このファー&ファインは、ティップアクションに近いプログレッシブアクションで、シリーズの中でも非常にキャスティング性能に優れた使いやすいアクションだと思います。
 日本で一番人気のあった7フィート11インチ、4番の「セブンイレブン」や、7フィート3インチ、3番の「セブンスリー」も、ファー&ファインによく似たプログレッシブアクションで、非常にキャスティング性能に優れた竿です。


 この竿は1999年に購入したものですが、当時の私は多くの人が経験する、フルラインキャストの壁に悩んでおり、この竿は釣りにはほとんど使用せず、もっぱら芝生の上でキャスティング練習に使っていました。
 その頃私は、釣りの師匠である北海道の菊地さんと手紙でのやりとりを繰り返していたのですが、菊地さんの手紙での指導に従い、この竿を使って、1回のフォルスキャストでフルラインを投げる練習に励みました。
 具体的には、12ヤードほどのラインをピックアップ、フォワードキャスト、バックキャストでそれぞれラインを送り出し、シュートする投げ方です。この竿はローモデュラスのグラファイトを用いており反発力が高くないので、キャスティングのタイミングがずれるとラインが失速してしまうのですが、シュートの前のバックキャストで真っすぐ後方にラインを伸ばすことができれば、シュート時にバットにグンとラインの負荷が乗り、フルラインを投げることができます。

 日本の渓流用のフライロッドは、今や3番ロッドが主流で、初心者がいきなり3番ロッドでキャスティングや釣りを覚えることが多いと思いますが、できれば最初は5番以上の竿でキャスティングの基礎をしっかりと身に着けることが、釣りが上達する近道ではないかと思います。

ファー&ファインは、ローモデュラスグラファイトを使ったしなやかな竿なので、5番ロッドですが、意外と本州のアベレージサイズのヤマメ(アマゴ)、イワナでも楽しめると思います。


 この竿は名竿と呼ばれることも多かったですが、セブンイレブンやセブンスリーと併せて、数あるオービス グラファイトシリーズの中でも、名竿と一つと言えると思います。

2018年8月18日土曜日

SCOTT(その2)G804/3


 スコットの2回目は、G804/3、8フィート、4番、3ピースを紹介します。

 G804/3は元々ジャパン・スペシャルとして開発、発売されたものでしたが、その後標準ラインナップに加えられ、ジャパン・スペシャルの表記がなくなり、アメリカでも販売されるようになりました。
 この竿は、GシリーズがG2シリーズにモデルチェンジする直前のものです。


 ジャパン・スペシャルを名乗っていた頃は、リールシート金具がブラックのアルミのキャップ・アンド・リングでしたが、この竿はニッケルシルバーのものに変更になっています。

 私は、以前初期のジャパン・スペシャルのG803/3も所有しており、グリップの形状はこの竿と同じスコット特有のシガータイプでしたが、かなり太目のグリップが装着されており、好みではありませんでした。この竿は細めで握りやすい太さになっています。
 スコットのシガーグリップは、先細りストレートの非常にシンプルな形状ですが、なかなか良く考えられた形状で、特にインデックス・フィンガーグリップで握る場合に握りやすいと思います。


 この竿も、柔らかいティップに強靭なバットという、スコットの特有のアクションは他のGシリーズと共通ですが、もともとジャパン・スペシャルとして開発されただけあって、他のモデルに比べると全体に柔らかく、バット側まで深く曲がるアクションに設計されています。

 このG804/3とG803/3は、Gシリーズの中でも日本では名竿と言われており、人気が高かったのですが、実際に釣りに使ってみると、近距離のキャストを多用する日本の渓流では非常に使いやすく、低番手であってもアメリカの鱒を釣ることを想定した他のモデルとは異なり、日本の渓流魚の平均サイズに合わせたしなやかさを持っています。


 私は空気抵抗の大きな大き目のドライフライを多用するのと、よりキャスティング能力に優れる4番ラインが好きなので、G803/3よりもG804/3の方が好みですが、以前所有していたG803/3もG804/3と同じ特徴を持ち、日本の渓流で使用するのに最適な竿でした。

 スコットは、大手メーカーの中では、オービスと並んで好きなメーカーで、紹介した以外にも、グラスロッドも含めて何本も所有していたのですが、現在手元に残っているのは、前回紹介したG905/4とこの竿の2本だけです。
 Gシリーズは、その後G2シリーズ、新Gシリーズへとモデルチェンジし、より軽量で高性能になっているようですが、90年代の円高の頃は5万円以下で購入できたスコットGシリーズも今では10万円近く、もう少しお金を出せば国内ビルダーのバンブーロッドが変えるような値段になってしまったのは、残念です。

2018年8月10日金曜日

SCOTT(その1)G905/4


 今回はスコットのグラファイト、G905/4、9フィート、5番、4ピースを紹介します。

 この竿は、1990年代の中頃、イナガキが代理店だった頃にイナガキから購入したもので、スコットの工場がコロラドに移転した頃の竿になります。

 アクションはプログレッシブなティップアクションで、スコットのGシリーズに共通する特徴として、ティップが他社のグラファイトロッドと比べてかなり柔らかく、バットは太くしっかりしています。そのため、素振りすると、ティップがひょこひょこと動きます。このようなロッドデザインですと、近距離以外はキャスティングが難しいように思いますが、柔らかいティップからミドル、バットにかけてのテーパーのバランスが良いためか、近距離から遠投まで違和感なくキャスティングが可能なようにデザインされています。
 バットは太く粘りがあり、50cmを超えるニジマスやブラウンを掛けても、余裕をもって対応できます。


 Gシリーズは、比較的ローモデュラスのグラファイト素材を用いているので、例えばセージなどのハイモデュラスのグラファイト素材を用いた竿と比べると、ロッドスピードは遅いのですが、キャスティングストロークのスピードからイメージするよりも、ラインスピードが速いという独特のキャスティング感覚があります。これはローモデュラスのグラファイトを用いながら、ファストテーパーのティップアクションにデザインされているからだと思います。

 確か1980年代後半の雑誌のインタビューで、当時のオービスの社長が、自社以外の竿で良いと思うメーカーはとの質問に対し、スコットと答えていたのを記憶していますが、オービスのウェスタンシリーズも、ローモデュラスのグラファイトを用いながら、ファーストテーパーにデザインされており、Gシリーズを意識して開発されたのではと推測しています。


 この頃までのスコットは、ガイドフットがダブルラップ(ガイドフットの根元にスレッドが二重にラッピングされている)になっており、手間をかけた凝った仕上げになっていました。
 また、スコットの特徴であるインターナルフェルールのラッピングも、メス側のフェルール部にガイドを乗せて、補強巻の上にガイドが巻きとめられており、オス側の補強巻も含め、頑丈に仕上げられています。


 Gシリーズというと、グリップとリールシートがコルク一体型のブラックのアルミのキャップ・アンド・リングのリールシートのイメージが強く、私もその仕様の竿が欲しかったのですが、残念ながら当時はそのような仕様はありませんでした。その後、代理店がマーヴェリックに代わってから、ブラックのキャップ・アンド・リングが復活します。

 コルクグリップも日本人の手には長すぎるのですが、竿が9フィートと長く、グラファイト素材も現代のものと比べると重いため、使ってみると見た目はともかく、バランスが取れているので、面白いものです。

 当時、日本のフライフィッシャーマンの間では海外釣行がブームで、私もこの竿を携えて、アイルランド、アメリカのビックホーンリバー、サンワンリバーと海外釣行を重ねました。
 9フィート、5番というスペックは、海外の大きな川でニジマス、ブラウンを相手にするには非常に便利で、特にこの竿は、ドライフライから大きなヤーンマーカーを付けたニンフまで1本でこなすことが可能です。ティップが繊細なので、7Xのティペットに#24のミッジフライの釣りも可能でした。


 海外釣行だけでなく、止水の管理釣り場や、ほとんどやらないのですが、フローティングラインにウェイテッドのウーリーバガーでブルーギルやブラックバスを釣ったりもしました。

 今では竿袋はところどころ穴が開き、メイプルのリールシートウッドはクリアの塗装が8月のビックホーンの暑さに耐えきれず溶けてしまい、見た目が相当にくたびれてしまいましたが、竿自体はまだまだ十分に使用可能で、私の宝物のうちの1本になっています。

2018年8月4日土曜日

Archistrial MM822-4


 今回は、アーキストリアルのグラファイトロッド、MM822-4、8フィート2インチ、2番、4ピースを紹介します。

 1980年代に月刊フィッシングやアングリングを読んでフライフィッシングに憧れていた私にとって、アーキストリアルはオービスと並んで憧れの存在でした。中でもフィッシング誌に掲載された、アーキストリアルの代表でありロッドデザイナーの羽田氏のラス・ピークの工房訪問記は、当時中学生だった私に強烈な印象を残し、何度も何度も読み返したものです。

 この竿は最近になってインターネットでアーキストリアルのウェブサイトを見つけ、今でも羽田氏がフライロッドを作製されているのを知り、2013年に注文したものです。ネット上では羽田氏に関し、様々な噂が囁かれていましたので、本当に竿を作ってもらえるのか一抹の不安がありましたが、その心配には及ばず、2カ月ほどでシアトルから送られてきたのがこの竿です。


 この竿は、マルチモデュラスモデルと呼ばれており、4ピースの各セクション毎に異なるモデュラスのグラファイト素材が使用されています。具体的には、ティップセクションにはローモデュラス、バットに向かうほどハイモデュラスの素材が使用されています。
 羽田氏は、1980年にアーキストリアルの最初のモデルの発売時から、このコンセプトをロッドデザインに取り入れており、当時のモデルはグラファイトとグラスのコンポジット素材を使用したものでした。

 以前紹介したラス・ピークのZenith PGGは、この竿とは正反対にティップセクションにハイモデュラスのグラファイト、バットセクションにローモデュラスのグラス素材が使用されています。これは、ラス・ピークのロッドデザインがプログレッシブなパラボリックアクションであるのに対し、アーキストリアルではプログレッシブなティップアクションであるためです。

 ティップ側ほどローモデュラスの素材を使用しているこの竿では、キャスティング時にティップが曲がる速度、復元する速度が遅いため、ロッドを止めた際にティップが振動しにくく、スラックが入りにくいという利点を感じます。また、不思議なことにグラファイトロッドなのに、バンブーロッドに近いロッドスピードを持ち、良く出来たバンブーロッドを振っているような心地よい感覚があります。
 2番という低ライン番手の竿ですが、短いストロークで力を入れずに軽く竿を振ってやると、ラインの軽さを感じさせない力強いラインがタイトループで真っすぐ、グングンと伸びていきます。


 4つのセクションのジョイントは、ティップと2番目間がオーバーフェルール、それ以外にはスピゴッドフェルールが用いられています。各フェルールは、他のグラファイト、グラスロッドではありえない精度ですり合わせがされており、バンブーロッドの良く出来たメタルフェルールのように、フェルールを抜いた際に「ピコッ」という小気味良い音がします。

 羽田氏は、このMM822-4が最もお気に入りのモデルで、この竿一本あれば、日本の渓流からアメリカのスプリングクリークの釣りまでカバーできるとメールに書いておられましたが、私は渓流では7フィート前後のバンブーロッドで釣りをするのが好きなので、残念ながらこの竿は未だ湯原温泉の虹鱒釣り場でのミッジの釣りにしか使用していません。


 この竿は、ラス・ピークの竿と同様に、化学素材を使った竿でもバンブーロッドのような素晴らしい竿が作れることを証明していると思います。価格はバンブーロッドなみに高価なのですが、その価格に十分値する性能と、キャスティング、釣りの楽しさ、所有する喜びを備えていると思います。