2018年11月23日金曜日

CASKET Revolution RB48MLS


 今回は、ロッドビルディングについて投稿します。
 弟からの依頼でカスケットのグラファイト渓流スピニングロッド、レボリューションRB48MLS、4フィート8インチ、2ピースを組み立てました。

 さて、いつものようにスパインを出してグリップのコルクの接着から始めようとしたのですが、いきなり問題が発生。このカスケットのブランクは、どうも塗装にラッカーを使っているみたいで、アルコールやエポキシのうすめ液で塗装が溶けることが判明しました。私はブランクの汚れを拭き取ったり、組み立て中にブランクに付着した接着剤等を拭き取るのにアルコールを使いますし、ラッピングのエポキシコートは、特に1回目のコートはうすめ液でかなり薄めたものを塗りますので、このままでは組み立てられません。
 そこで、アルコールを使ってブランクの塗装をすべて落としてから、アルコールに溶けないウレタン塗料を使って、塗装をすることになりました。
 この塗装を落とすという作業は、綺麗に仕上がっているものを取り除くという、いわば後ろ向きな作業ですので、竿を組み立てるという前向きな作業とは異なり、なんとも精神的に疲れるものです。


 リールシートは、いつも使っているAndrew's Fishingのものです。私がお店で厳選した手元にある在庫の中から、弟に現物を見て選んでもらいました。金具もシルバー、ゴールド、ガンメタルの3色の中からガンメタルを選択してもらいました。



  レボリューションシリーズは、2ピースのバットセクションよりもティップセクションが長いワン&ハーフになっています。フェルールがバットにこれだけ近いと、アクションにほとんど影響を与えないと思いますので、ワンピースに近いキャスティングフィールが得られるのではないかと想像します。


 現在のカスケットの竿は、グリップが着脱式になっています(正しくは3ピースということになるのでしょうか・・・)。カスケットの完成品の竿は、グリップにレアウッドを使用した大変高価なものとなっており、希少なウッドを使ったグリップを複数の竿で使いまわせるように配慮したもののようです。
 グリップはボロンを使ったシャフトを購入して組み立てるようになっています。ボロンシャフトは、竿の長さ別に数種類発売されており、この竿に使用したシャフトは5フィート前後の数種類のブランクに適合するようになっています。従って、各ブランクのバット側のフェルールの外径は共通になっており、この竿ではフェルールの手前でブランクがかなり急激なスウェルバットになっています。

 ティップ径はかなり細く、バットまで全体的にかなり細身の竿ですが、かなり弾性率の高い素材を使用しており、ティップから曲がり始めるかなり固めのファストアクションになっています。3.5g以上のシンキングミノーに適しているように思います。
 これだけ細身でスローテーパーでも、パワフルなファストアクションの竿が作れるのは、正に高弾性のグラファイト素材のなせる業だと思います。


2018年11月17日土曜日

原田竹竿 5’2”


 お気に入りの竿の番外編第2弾は、原田竹竿のバンブースピニングロッド、5フィート2インチ、3ピースを紹介します。

 原田竹竿の原田克己さんは、大阪在住のロッドビルダーで、現在は真竹を使ったフライロッドを中心に製作されていますが、渓流ルアー用のスピニングロッドやベイトロッドも製作されています。前回紹介したレイチューンのターゲットも原田さんの手によるものです。

 この竿を作製してもらうにあたり、レイチューンの上原さんにターゲットシリーズの中で1.5gくらいのフローティングミノーから3gくらいまでのシンキングミノーまで使用するのに最適な竿を尋ねたところ、ターゲット503、5フィート、3ピースが最も適しているという回答をいただきました。ターゲット503はトンキンケーンを素材としたメタルフェルールの竿ですが、この竿はターゲット503のテーパーをベースに、素材はトンキンケーンのまま、長さを5フィート2インチに延長し、原田さんお得意のバンブーフェルールで作製してもらいました。


 ターゲット521がティップアクション気味のプログレッシブアクションであるのに対し、この竿はティップが太目のスローテーパーにデザインされており、よりバットに近い箇所から曲がり始めるパラボリック気味のプログレッシブアクションにデザインされています。全体に曲がるアクションにより、1.5gのフローティングミノーがキャスティングでき、バットで負荷を受けるので、3gくらいのシンキングミノーでもキャスティングできるようになっています。
 1.5gのフローティングミノーをキャストする際、ターゲット521はティップが仕事をしますが、この竿は竿全体が仕事をします。全体的にターゲット521よりもパワーがあるので、軽量フローティングミノーを投げる際は、ミノーの重量だけでは竿の曲がりが足りず、キャスターがストロークで竿を曲げてやる必要がありますので、軽量ミノーを投げるにはターゲット521の方が向いていると思います。


 軽量フローティングミノーからシンキングミノーまで使用可能なオールマイティーな竿であるのに加え、3ピースで携帯で便利なため、渓流の状況が分からないような場合や遠征時に便利です。

 私は軽量フローティングミノーが使いやすいターゲット521の方が好みですが、私の友人は、この竿の方がキャスティングしやすいと言っています。このあたりは、使用するルアーと好みの問題だと思います。


2018年11月10日土曜日

Ray Tune Target 521


 これまでお気に入りのフライロッドを紹介してきましたが、今回はその番外編ということで、ルアー用のバンブースピニングロッド、レイチューンのターゲット521、5フィート2インチを紹介します。

 私は本格的にフライフィッシングを始めて以降は、基本的にフライフィッシングオンリーで釣りをしてきましたが、7年ほど前から数年間、渓流のルアーフィッシングに熱くなっていた時期がありました。フライオンリーの人間がルアーをやってみると、新しい発見があったり、フライにはない楽しさがあったりして、ルアーにはルアーの面白さがあるのですが、それはまた別の機会に紹介したいと思います。

 渓流のルアーを始めて最初の頃は、現在主流となっているシンキングミノーの釣りに適したグラファイトロッドを使っていたのですが、渓流ルアーの中でも特にフローティングミノーを使った釣りが気に入ったこともあり、フローティングミノー用の竿ということで出会ったのが、このバンブーロッド、レイチューン ターゲット521です。


 レイチューンは香川在住のハンドメイドルアービルダー、上原徹也さんのブランドで、ハンドメイドバルサミノーや最近ではインジェクションのプラスチックミノーも販売されています。フローティングミノーの釣りが好きな上原さんが、軽量なバルサ製のフローティングミノーの釣りに適した竿を求めて完成したのが、このターゲット521です。竿の共同開発者であり作製は、原田竹竿の原田克己さんです。


 ターゲットには現在4種類のモデルがあり、この521は最初に開発されたモデルですが、ターゲットのラインナップの中で最もフローティングミノーに適した竿です。フローティングミノー専用といっても良いと思います。

 バンブーロッドは、素材の自重で竿が曲がるので、自重が軽く弾性率が高いグラファイトロッドに比べ軽量なフローティングミノーが投げやすいという特性を持ちます。
 ターゲット521は、ティップから順に曲がっていくプログレッシブ・ティップアクションにデザインされており、1.5g程度のバルサフローティングミノーでもキャスティングが容易になっています。シンキングミノーももちろん使用できますが、キャスティングやアクションを加えるのが快適に行えるのは、2.5gくらいまでだと思います。


 この竿の大きな特徴は、ワンピースであることです。ワンピースは持ち運びが不便というデメリットがありますが、フェルールがないため、非常にスムースなアクションで、キャスティングしてみると竿が曲がる際、復元する際にエネルギーの伝達に継ぎ目がなく、フェルールの着いた竿にはない独特のフィーリングがあります。

 軽量なフローティングミノーのキャスティングを最も重視したしなやかな竿のため、あまり大き鱒には向いていないように思いますが、尺ヤマメ、尺イワナには充分対応できるバットパワーは有しています。

 クラシックな雰囲気を持つバンブー素材の竿ですので、カーディナル3やミッチェル308などのクラシックリールにナイロンラインの組み合わせがマッチしているように思われるかもしれませんが、私はシマノの当時最新の超軽量リールにPEラインの組み合わせで使用しています。フェルールがないこと、リールシートに軽量なアルミを使用していることから、バンブーロッドとしては非常に軽量ですし、バンブーロッドはミノーにアクションをつけたり、フッキングややり取りの際に、ティップへの入力を竿自身が吸収しますので、伸びの少ないPEラインが向いているように思います。

 持ち運びは確かに不便ですが、私の好きなフローティングミノーの釣りで非常に軽快な釣りができますので、この竿は何本か所有している渓流スピニングロッドの中でも特に気に入っている竿です。

2018年11月3日土曜日

菊地悦夫 Infinite 7'6" #4


 今回は菊地悦夫さん作のバンブーロッド、Infinite 7フィート6インチ、4番を紹介します。今回は少し長文になります。

 菊地さんは、フリースロッドの日本での販売に初期の段階で協力されていた方で、昔からこの釣りをされている方の中には、古くはアングリングや初期のフライの雑誌で、その素晴らしい記事の数々を目にされた記憶をお持ちの方も多いと思います。札幌のフライショップ、テムズを開業された方でもあります。

 菊地さんとは1997年からフリース竿がきっかけでお付き合いさせていただくようになり、それ以降亡くなられた年まで、毎年夏には御自宅にお邪魔し、一緒に釣りをさせていただきました。菊地さんには、私が人生の岐路に立たされた時にも何度か助けていただき、フライフィッシングだけでなく、人生の師匠のような存在でもありました。
 菊地さんと私はちょうど20歳年が離れていましたが、菊地さんには最初の奥様の連れ子で生き別れになった私と同じ歳の息子さんがおられたので、心のどこかで私を息子のように感じていただいていたのかもしれません。


 菊地さんはフライフィッシングを初めてから、レナードを始めとする数々のバンブーロッドを使用してこられ、その後故川野信之先生の紹介でフリース竿に巡りあり、フリースも菊地さんとの出会いを通じて、Katanaシリーズを生み出します。菊地さんは、半分自身が開発したといっても過言でない、Katana 735を数本使いつぶすほど愛用されていましたが、それでも菊地さんの理想を100%満足するものではありませんでした。

 私が菊地さんと出会って何年か経ったころ、当時私はGarrisonのストレスカーブ計算を逆算してテーパー(六角の対面幅)からストレスカーブを計算するExcelシートを作成し、所有している竿やネット上で公開されている過去の名竿のテーパーからストレスカーブを計算することに凝っており、菊地さんにもよくその話をしていました。
 菊地さんは以前から竿の断面積からテーパーを設計する独自の方法を考え出しておられ、これは前回紹介したストロング・ガスティ―の開発にも生かされているのですが、Garrisonのストレスカーブの考え方には最初疑問を持たれていました。
 何通もの手紙でのやりとりや、菊地さん宅を訪問した際の議論で、フリース竿や過去の名竿のストレスカーブを示して説明するうちに、菊地さんもストレスカーブの有用性を認識され、オリジナルテーパーを私が作成したExcelシートを使って計算されるようになりました。
 そして自身でバンブーロッドを作製されるようになり、完成した竿が今回のInfiniteです。


 この竿は菊地さんが自身の釣りで竿に要求する要素を100%具現化したもので、道南の渓流でのドライフライの釣りにおいて、20cmほどのヤマメから50cmを超えるニジマス、ブラウン、アメマスまで対応できるように設計されています。

 テーパーデザインは、至近距離から20ヤードを超えるロングキャストまで全てのレンジにおいて少ない力でスムースなキャスティングができるように、ティップからバットにかけてストレスがなめらかに低下してゆく、ファストテーパーに設計されています。菊地さんは、レギュラーグラファイト時代のウィンストンに近いとおっしゃっていましたが、ストロング・ガスティをしなやかにしたような竿とも言えます。

 菊地さんは、ドライフライの釣りは、タイトループ、スローラインのキャスティングとおっしゃっていましたが、正にそのようなキャスティングを実現するためのテーパーデザインで、最小限かつゆっくりしたストロークでスロースピードのタイトループが作れる竿になっています。

 この竿は羽舟さんや北岡さんにも見ていただいたことがありますが、やはりお二人の好みからは、竿が強すぎたようです。


 フリースが使用していたトンキンケーンは、菊地さんが中国からコンテナで大量に輸入したものですが、この竿にもその時輸入した良質のトンキンケーンが使用されています。

 鮮やかな赤のラッピングは、一人で渓流で釣りをしている時にも陰鬱な気持ちにならないように選択されたものです。

 菊地さんは、Infiniteの完成後、本格的にロッドビルダーとしてデビューすることを考えておられましたが、10ミクロンの精度でテーパー設計通りに作製することに拘るなど、作製に時間がかかりすぎることもあり、残念ながらこのInfiniteは、最初にご自身用に作製した1本と菊地さんのごく親しい友人向けに数本が製作されただけに終わりました。

 この竿は、贅肉をそぎ落とした無駄のないテーパー設計ですが、遠投性、北海道で時に対峙することになる大物への対応を考慮した4番ロッドとしては強めの設計になっているため、若干重量があるのと、私の普段の釣りでは7フィートまでの竿を使用する釣り場がほとんどであること、バットの強い竿はあまり好みでないことから、本州での釣りにはあまり使用せず、もっぱら北海道での菊地さんとの釣りに使用していました。

 特に十数年前に私が働きすぎで心身に不調をきたし、数カ月仕事から離れた際、療養のため菊地さん宅に長期間滞在し、二人でそれぞれのInfiniteを携えて何日間も連続で道南の渓流を釣り歩いたのは、私の一生の思い出です。

 この竿は、菊地さんとの大切な思い出のつまった、前回のストロング・ガスティ以上に宝物です。