2021年1月30日土曜日

F.ソーヤー「伝説の鱒釣り師 フランク・ソーヤ―の生涯」

 


 前回、リッツの「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」を紹介しましたので、今回はリッツとも親交のあったフランク・ソーヤ―の「伝説の鱒釣り師 フランク・ソーヤ―の生涯」を紹介します。

 この本の原題は「Man of the Riverside」で1984年に発行されたようです。邦題のとおり、イギリスのエイボン川のリバー・キーパーに生涯をささげたソーヤーの少年期から亡くなるまでを、ソーヤーの著作物を中心にS.ヴァインズがまとめたものです。「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」から引用されたリッツの文章も含まれています。

 ニンフ・フィッシングやソーヤー・ニンフのタイイングについても収録されていますが、川辺の生き物やリバー・キーパーとしての活動に多くのページが割かれており、ソーヤーが少年時代から優れた観察眼を持っていたことや、水生昆虫や魚類の研究者としても大変優れていたことが大変よく分かります。
 BBCで釣りを生中継した時の面白い話も収録も収録されています。

 ソーヤーの著作物は、同じく日本語訳が発行されていた「イギリスの鱒釣り師」も読みましたが、今回紹介した本の方が内容的にも面白く、日本語訳も読みやすいと思います。

 私は渓流では基本的にドライ・フライの釣りしかしませんが、この本を読んでソーヤー流のサイト・ニンフ・フィッシングを試していた時期があります。この釣りは鱒が流れに定位しているのを目視できないと釣りにならないので、釣り場や状況は制限されるのですが、ニンフがフィーディング・レーンに乗るように、ニンフの沈下速度を計算に入れてキャスティングし、鱒の動きを見て合わせる釣りは、上手くフッキングまで持ちこめた時の喜びはひとしおです。
 フェザント・テールを始めとするソーヤー・ニンフは、モデルとする水生昆虫の形状と生態を的確にとらえてディフォルメしているとともに、機能的にもネザーエイボンスタイルと呼ばれるソーヤーのニンフ・フィッシングに最も使いやすいようにデザインされています。

 私が所有している本は文庫本版で、こちらは絶版になっているようですが、単行本は今でも入手可能なようです。フライフィッシングの本としてだけでなく、読み物としてもお勧めの本です。

2021年1月23日土曜日

シャルル・リッツ「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」

 


 前回沢田賢一郎氏のフライキャスティングの本を紹介しましたので、今回は沢田賢一郎氏がキャスティングの指導を受けた、シャルル・リッツの「ア・フライフィッシャーズ・ライフ」について書きたいと思います。

 この本は言うまでもなく、フライフィッシング関連の書籍として世界で最も有名なもののうちの1冊で、フライ・フィッシングのバイブルと言っても過言ではありません。1970年代、1980年代にこの釣りを始めた多くの方は読まれているかと思います。
 私が所有しているものは、1984年にティムコから初版が発行された日本語翻訳版の第3版で、1997年に発行されたものです。このティムコの翻訳版は1972年に出版された最後の改定第4版を翻訳したもので、この改定であの有名なハイ・スピ―ド/ハイ・ライン(以下HS/HL)に関する項が追加されています。
 シャルル・リッツと言えば、HS/HLであり、ペゾン・エ・ミッシェルのバンブーロッドです。

 この本に収録されている内容は、キャスティング技術だけでなく、フライロッドやグレーリング、鱒の釣り方、世界中の釣り師との釣りの思い出など、フライフィッシング全般に関わるものですが、この本を有名にしているのは、やはりHS/HLを中心としたフライキャスティングの技術と、リッツがPPP(Puissane Pendulaire Progressive)と名付けたパラボリック・アクションのバンブーロッドに関する記述だと思います。

 HS/HLテクニックは、1960年代の初めににリッツがアメリカ西海岸のトーナメント・キャスターであるジョン・タランティーノらとの交流により構築したものですが、現代においては何も特別なものではなく、誰もが行っているキャスティングのスタイルです。
 日本では、リッツから沢田賢一郎氏、さらにそのお弟子さんたちへと継承された所謂沢田派のキャスティングスタイルと、ジョン・タランティーノからジム・グリーンやメル・クリーガー、更にスティーブ・レイジェフ、日本では東知憲さんへ継承されたサンフランシスコ派のキャスティングスタイルは、別の流派の様にとらえられていますが、そのルーツは同じであり、つまり現代のフライキャスティングの基本は同じであるという点が面白いところです。

 この本のもう一つの目玉である、パラボリックアクションのバンブーロッドに関しては、ペゾンのPPPを代表する名竿ファリオ・クラブのあの有名な誕生秘話、自転車でロッドティップを追ったことで偶然生まれたという話は、実はこの本には載っていません。

 ちなみにパラボリックアクションというと、曲がりの起点が負荷によらず変わらないロッドアクションとよく言われており、この本にもそのようなことが書かれています。しかし、パラボリックアクションの代表であるファリオ・クラブは、軽負荷からバットが曲がりはじめるというパラボリックアクションの特徴を持っていますが、曲がりの起点は負荷に応じて移動しますので、ペゾンの竿の中では比較的プログレッシブアクションに近い竿と言えると思います。
 フライロッドにはテーパーがついているので、曲がりの起点が全く移動しない竿というのは力学的にありえず、私はそのような竿を見たことがありません。パラボリックアクションは、低負荷で曲がりの起点がティップに近いところからでなく、よりバット側から始まり、負荷を増した時に曲がりの起点の移動距離が相対的に少ないアクションというのが、正確な定義だと考えます。

 この本には多くのモノクロの写真が掲載されており、その中でもリッツがショートロッドで信じられない長さのロングキャストをしている写真は特に印象深いものです。アーノルド・ギングリッチ、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・タランティーノ、ピエール・クルーズヴォー、レフティ・クレイ、フランク・ソーヤといった今や伝説の人物の写真も掲載されていますし、世界中の釣り場の風景も載っています。

 今敢てHS/HLの理論や技術を学ぶ必要はありませんが、フライキャスティングのメカニズムやフライロッドに興味のある方には、非常に有益な本ですし、フライフィッシングの歴史の一旦に触れる意味でも、読んでおいて損はないと思います。
 この本の日本語版は、2016年に未知谷から新訳の改訂版が発売されており、現在も入手
可能です。

2021年1月16日土曜日

沢田賢一郎「フライキャスティングテクニック」

 


 今回もフライキャスティングの本の紹介です。沢田賢一郎氏の「フライキャスティングテクニック」です。

 古くからこの釣りをされている方には言うまでもありませんが、沢田賢一郎氏は日本のフライフィッシング界を聡明期から開拓、牽引されてきた大御所で、フライキャスティングの指導者としてだけでなく、フライタイヤ―としても世界的に著名な方です。
 2000年代くらいまでは、氏の指導を受けたフライキャスターの方(その多くはフライショップの店主)が数多く活躍されており、これらの方の指導を受けた方も多くおられると思います。

 沢田氏や氏のお弟子さんのキャスティングスタイルは、前回までに紹介したサンフランシスコ派を始めとする多くのフライフィッシャーが行っているスリークウォーター気味のそれとは異なり、ロッドを地面に対し垂直に立て、脇を閉めて振るもので、その画一的なスタイルを嫌うアンチの方もおられるようですが、オリジナルの沢田氏のそれは、お弟子さんのそれに比べ、意外にもリラックスした自然体のものです。

 この本は第1部基礎編と第2部応用編の2部構成となっており、第1部はフライキャスティングのメカニズムと本質を分かりやすく解説した第1章「フライキャスティングとは何か」に始まり、ウェットフライ・キャスティング(ピックアップ・アンド・レイダウンキャスト)、フォルスキャスト、プレゼンテーション、シングルホール、ダブルホールと順を追って、豊富なカラー写真とともに理論的な解説が非常に理解しやすい表現でなされています。
 第2部の応用編では、ロングキャストやロッドのアクションに応じたリストワーク、ループの形のコントロール、シューティングヘッドの投げ方、キャスティングのバリエーション、バンブーロッドのキャスティングまで、フライキャスティングに関する一通りの解説がなされており、初心者から上級者まで満足できる内容になっています。

 この本には同じタイトルのビデオ版もあり、内容はほぼこの本に沿ったものとなっていました。私はこの本と同じく、ビデオも何度も繰り返し視聴しました。これらは沢田氏が代表を務める株式会社サワダから発売されたものであり、残念ながら今はもうその会社自身が無くなってしまいましたので、これらを新品で入手することはできません。

 私は所謂沢田派ではないのですが、氏のキャスティングとキャスティングから生まれるループは大変美しく、この本の中には他のフライキャスティングの本には書かれていない目から鱗の内容やヒントが数多く含まれていますので、日本人が書いたキャスティングの教書としては、やはり大変優れた本だと思います。

2021年1月9日土曜日

東知憲「CONTROLLED FLY CASTING」

 

 前回のブログでは、メル・クリーガーの「エッセンス・オブ・フライキャスティング」について書きましたが、今回はその本の翻訳者であるとともに、メル・クリーガーと長年親交があり、氏の弟子とも言える東知憲さんの「コントロールド・フライ・キャスティング」を紹介します。

 「エッセンス・オブ・フライキャスティング」は初心者から上級者まで幅広い読者層を対象に書かれているのに対して、この本はフライキャスティングの上達を目指す中上級者向けに書かれています。そのため、理想的、効率的フライキャスティングに不可欠なロッドティップが直線軌跡を描くにはどうすれば良いかを中心に個々の技術要素について理論的に解説しています。

 東さんはこの本の中で自身が述べているように、ジム・グリーン、メル・クリーガー、スティーブ・レイジェフといった、所謂サンフランシスコ派のキャスターの一人なので、この本で解説している内容もそのキャスティング・スタイルがベースになっています。メル・クリーガーが「エッセンス・オブ・キャスティング」で展開している理論を更に詳しく解説した本と言えます。

 文章を読んでフライキャスティングを理解するのは難しく、特にこの本は以前に紹介した2冊に比べるとなかなか難解な内容になっていますが、「エッセンス・オブ・フライキャスティング」以上に多用された写真が、理解の手助けになっていると思います。

 初心者や、頭で理解するよりは体で覚える主義の方には向きませんが、この本は現在でも入手可能ですので、フライキャスティングの技術を更にレベルアップしたいと考えている方でキャスティングのメカニズムを理論的に理解したい方には良い本だと思います。

2021年1月3日日曜日

Mel Krieger ’The Essence of Flycasting’

 


 前回はジム・グリーンのキャスティング教書を紹介しましたので、今回はアメリカ西海岸繋がりということで、メル・クリーガーの「エッセンス オブ フライキャスティング」を紹介します。

 ジム・グリーン「フライ・キャスティング」が、初めてフライロッドを手にする全くの初心者を対象として書かれているのに対し、メル・クリーガーのこの本は初心者だけでなく、上級者が読んでも十分役に立つように意識して書かれています。
 それは、まず第1章が「The Mechanics of Flycasting(フライキャスティングの力学)」から始まっていることからも伺えます。また、第6章の「The Application of Power(力の入れ方)」ではテーリング・ループのできるメカニズムやロッドの曲げる位置を変えるにはどうすればよいのか、第7章の「The Fly Rod」ではロッドアクションの違いにより、キャスティングストロークをどのように変えれば良いのかといった、ある程度キャスティングができるようになった中級者が直面する課題、あるいは上級者であれば経験的に習得している技術を理論的に解説しています。

 フライキャスティングを文章と写真でレクチャーするのは非常に難しいので、メル・クリーガーはフライキャスティングの力学、メカニズムを最初に解説することにより、読者にフライキャスティングの原理原則を理解してもらおうとしたのではないかと推測します。

 それ以外の内容としては、グリップの握り方から始まり、ピックアップ・アンド・レイダウンキャスト、フォルスキャスト、シューティングという基本的なキャスティングから、ダブル・ホール、各種のトリックキャストまで網羅されているので、まさに本のタイトル通り、フライキャスティングのエッセンスが1冊に凝縮された本と言えます。

 この本の英語版のオリジナルは1987年に出版され、日本版は東知憲氏の翻訳で1995年につり人社から出版されています。

 実は日本ではこの本が出版される前に、この本のビデオ版が同じくつり人社から発売されていました。ビデオ版はⅠの基礎編とⅡの応用編の2本に分かれており、概ね本の内容に沿ったものでしたが、基礎編では得に初心者を飽きさせないように、実際の釣りの場面が挿入されていたり、応用編ではジム・グリーン、スティーブ・レイジェフといったゲストが登場していました。基礎編は特に秀逸で、美しい景色の中での釣りとキャスティングのシーンとBGMの調和が非常に印象的で、単なるキャスティングの教則ビデオを素晴らしい越えた作品でした。私も日本での発売順に、まずビデオを購入しましたが、このビデオは本当に何度も何度も繰り返し視聴しました。是非つり人社にはDVD版を再販して欲しいと思います。

 この本は残念ながら絶版となっているようですが、英語版の本とDVDはメル・クリーガーの奥さんのファニー・クリーガーが運営しているKriegerFlyFishing.comから購入できるようです。日本語版も同ウェブ・サイトによると、ファニー・クリーガーに問い合わせれば購入できるようです。