2020年12月26日土曜日

ジム・グリーン「フライ・キャスティング 基礎編」

 


 今回から私のお気に入りの本を紹介したいと思います。初回はジム・グリーンの「フライ・キャスティング 基礎編」です。

 初版は1971年と大変古い本ですが、フライ・キャスティングの入門書として現代でも十分通用する名著であり、1970年代、1980年代にフライを始めたベテランの方で、この本でフライ・キャスティングを学ばれた方は多いと思います。
 日本ではティムコが翻訳版を発売しており、初版は昭和47年(1972年)ですので、アメリカで発行された翌年にはもう日本で発売されていたことになります。
 ちなみにティムコがフェンウィックの製品の輸入を開始したのは、1971年だそうです。

 この本は私が高校に入学する前の春休み(1983年)にフライ・フィッシングを始めるにあたり、タックル一式と一緒に購入したものです。私が初めて購入したフライ専門の書籍でもあります。この本を片手に、河川敷や稲刈りが終わった田んぼで、試行錯誤しながらキャスティングの練習に励んだのを懐かしく思い出します。


 ジム・グリーンはフェンウィックの黄金期である1960年代、1970年代に同社でチーフ・デザイナーを務めており、トーナメントキャスターとしても有名です。そのため、この本に書かれているキャスティング・スタイルも、西海岸のトーナメントキャスターが行っていたショート・ストロークのキャスティングで、現代でも十分に通用するものです。
 この本の中でジム・グリーンはバック・キャスト、フォワード・キャストのストロークの最後でしっかりと竿を止めることの重要性を繰り返し説いています。

 この本の面白い点であり優れた点は、まずフライ・キャスティングとルアー・キャスティングの違いから始まり、バット・セクションだけを使ってグリップの握り方と基本的なストロークの解説、ラインを通して芝生の上でのキャスティングと、順を追って読者に語りかえるように解説している点です。しかも初めてフライ・キャスティングを行う初心者が陥りそうな失敗が、まるでその場で見ているかのように記述してあり、都度立ち止まって注意点を述べています。読者はこの本を片手にキャスティング練習を実践することにより、まるでジム・グリーンの個人レッスンを受けているように、キャスティングを学ぶことができます。
 この本には写真が一切なく、文字とイラストでフライ・キャスティングを解説しているのですが、先に述べたような内容となっているため、初心者にとって非常に分かりやすいものになっています。

 ラインの長さの違いやロッド・アクションの違いによってキャスティング・ストロークを変化させることなど、この本で述べられていないこともありますが、フライ・ロッドを初めて手にする初心者が最初に読む本としては十分な内容であり、現代においても最も優れた初心者向けのフライ・キャスティング教書だと思います。

 この本には、対象魚や釣り場に応じたフライ・ラインの選択も記載されており、それは竿の性能が向上した現代においては、ヘビーすぎるものとなっていますので、そこは注意する必要があります。

 この本は今でも購入できますし、価格も非常に安く、読み物としても面白いので、初心者の方だけでなく、初心者にフライ・キャスティングを教える立場にある方、基本に戻って自分のキャスティングを見直してみたい方、フライ・キャスティングそのものに関心のある方にもお勧めです。

2020年12月20日日曜日

Hardy reproduction reels(その5)Perfect special model spit fire


 ハーディ復刻版リールの最終回は、パーフェクト・スペシャルモデル・スピット・ファイアを紹介します。

 このリールは、2003年に発売されたもので、1930年代のパーフェクトをスピット・ファイア仕様で再現したものです。オールド・パーフェクトには、黒鉛塗装(ブラック・レッド・フィニッシュ)が施されていましたが、第二次世界大戦中の一時期、無塗装のパーフェクトが生産されていました。当時のハーディは航空機の部品を作っていたため、この無塗装のパーフェクトには、イギリス軍の戦闘機スピット・ファイアの機体に使われているジュラルミンが使用されているとの噂が広まり、スピット・ファイアと呼ばれるようになったそうです。しかし、これは単なる噂に過ぎず、実際に使われていた材料はそれ以前のパーフェクトと同じであったようです。


 本物のスピット・ファイアはリール本体も含め全て未塗装でしたが、このリールはハンドルの着いているフェイスとスプールが無塗装で、本体は黒の塗装となっています。この色の組み合わせは、1905年から1939年に販売されていたスペシャル・パーフェクトという、フェイスよりも大きなスプールとフレームを持つパーフェクトに使用されていたものです。


 2003年に発売されたパーフェクト・スペシャルモデルには、2 7/8インチと3 1/8インチの2つのモデルがあり、ともに右手巻きのみが販売されました。
 チェック機構はデュプリケイティッド・マークⅡチェック、フットはアルミのリブ・フット、ラインガードはグレイの瑪瑙リングでした。


 このリールも大変美しいリールで、他の復刻版リール同様にハーディの職人が丁寧に手作りで仕上げた手の込んだ素晴らしいリールでした。ブラス・フェイスのパーフェクトに比べると軽量で、現代のバンブーロッドに組み合わせて使用しても許容できる重量で、サイズ的にも2 7/8インチは4番ライン、3 1/8インチは5番ラインで使用するのにぴったりでした。

 私は両方のサイズを所有していましたが、右手巻きと言う点がネックとなり、他の復刻版リールと同様、結局は1度も使用することなく手放すことになりました。

2020年12月12日土曜日

Hardy reproduction reels(その4)1902 Wide Spool Perfect - Trout Reel


  ハーディ復刻版リール紹介の4回目は、1902 ワイド・スプール・パーフェクト・トラウト・リールを紹介します。

 このリールは、2002年に発売されたもので、1902年モデルのブラス・フェイス・ワイド・スプール・パーフェクトを再現したものです。2 5/8インチ、3インチ、3 1/4インチの3種類のサイズがあり、3台のセットが豪華な革ケース入りで発売されました。3台セットが200セット、単品販売が各サイズ50台の限定販売でした。
 同時に1912年モデルのワイド・スプール・パーフェクトのサーモン・リールも発売され、こちらはスピット・ファイア仕様となっており、サイズは3 3/4インチ、4インチ、4 1/4インチの3種類で、トラウト・リールと同様、革ケース入りの3台セットが200セット、単品販売が各サイズ50台の限定販売でした。


 ピカピカに磨き上げられたブラス・フェイスとシルバーのスプールのコンビネーションが大変美しいリールで、C型バネを用いたキャリパー・チェックを始めとして内部機構が忠実に再現されており、とても100年前に設計されたリールとは思えない、素晴らしい完成度のリールでした。

 日本の鱒釣りで多用する3番から6番ラインに適合するサイズでしたが、2 5/8インチで171g、3インチで232g、3 1/4インチで245gと大変重く、また右巻き専用であったため、結局一度も使用することなく、手放してしまいました。



2020年12月5日土曜日

Hardy reproduction reels(その3)Brunswick Cascapedia 1/0 Trout Fly Reel

 


 今回はハーディの復刻版リールの中から、ブランズウィック・カスカペディアを紹介します。このリールは、カスカペディア4/0サーモンフライリールとともに2001年に発売されたもので、世界500台の限定販売でした。

 カスカペディアのオリジナルは1930年代に発売されたリールで、その外観から分かるように、当時サーモン・フィッシング用のリールとしてアメリカで人気のあった、エドワード・ヴァン・ホフ(Edward Vom Hoff)のサーモン・リールを参考に作られたものです。ハーディはこのような両軸受タイプのフライ・リールを、カスカペディア以外に後にも先にも製造していませんでしたので、ハーディの中では異色のモデルと言えます。

 1930年代に実際に販売されたカスカペディアは、サーモン用の大きなサイズのものだけでした。今回紹介するトラウト用の1/0サイズのブランズウィック・カスカペディアは、2台の試作品が作られただけで、販売されなかったそうです。


 ブランズウィック・カスカペディアのカタログスペックは、直径が2 7/8インチ(73mm)、重量が9.2オンス(262g)、ラインキャパシティがDT4 27yds+50mバッキング、WF5 27yds+50mバッキングでした。

 裏面にクリックの強さを調整するための大型のノブが装着されており、ノブの蓋を回転させると軸受けにオイルを注入できるようになっていました。
 ハードラバーのプレート、ステンレスのリムを始め、各パーツは素手で触れるのがはばかれるほどピカピカに磨き上げらており、付属品として白い綿の手袋が同梱されていました。


 このリールは予約時に巻き手方向を選べたので、私は左手巻きのモデルを予約購入しましたが、流石に重量が重すぎたため、やはり一度も使うことなく手放すことになりました。
 4/0サイズのサーモンリールの方は、ダブルハンドロッドと合わせて実際に使用している写真をウェブか雑誌で見た記憶がありますが、この1/0サイズの方は見たことがありません。現在このリールを所有しているユーザのほとんどは、釣りに使用することなくコレクションとして所有しているのではないかと推察します。

 前回紹介したボーグル同様に、カスカペディアも復刻版をきっかけに量産モデルであるカスカペディアMkⅡが2004年に発売され、数回のモデルチェンジを経て現在もカスカペディアの名前で販売されています。