2018年3月31日土曜日

Bjarne Fries(その1)Katana 704


 今回から数回にわたり、デンマークのバンブーロッドビルダー、ビヤーネ・フリースの竿を紹介したいと思います。
 その第1回は、Katana 704です。

 フリースのKatanaシリーズは、日本の渓流に適した竿をということで、当時フリース竿を日本に紹介されていた北海道の菊地さんのアドバイスのもと、開発された竿です。菊地さんによると、最初に3種類の竿が開発され、確かそれぞれ、「Tachi(太刀)」、「Wakizashi(脇差)」、「Tanto(短刀)」と名付けられていたそうですが、その名前ではイメージが良くないという菊地さんのアドバイスにより、それぞれ「Katana 735」、「Katana 704」、「Katana 633」に改められたそうです。

 菊地さんは、所有されていたレナード38、39、39Lのそれぞれの弱点を改良した竿をイメージされていたそうですが、完成したものは、これらとは全く異なる独創的なテーパー、アクションになっています。
 Katanaシリーズの特徴は、極めて細く急峻にテーパーしたティップセクション、フェルール前後がかなり強いミドルセクション、スローテーパーのバットセクションからなる複合テーパーからなり、これにより、ショートキャストではティップアクション、ロングキャストではパラボリックアクションの竿のように働き、キャスティング距離に応じて異なる2つのアクションを示すことにあります。
 フリースの竿は、どのモデルも贅肉をそぎ落としたテーパーデザインが特徴で、しなやかなのにシャープという相反する2つの性格を両立しているのですが、中でもこのKatanaシリーズは贅肉を限界までそぎ落としたテーパーデザインだと思います。

 フリースはギャリソンの本を教科書に竿作りを始め、私はフリースの初期のモデルはギャリソンのセミパラボリックアクションに改良を加えたものだと考えていますが、Katanaシリーズの開発を通じて、彼の天才的なテーパーデザインの才能が開花したのではと想像しています。フリースは1本の竿を複数のセクションに分け、それぞれが独自にあるいは相互に作用して、機能を発揮するテーパーデザインの方法を、この竿の開発の過程で身につけたのではないかと思います。
 Katanaシリーズのリリース以降、フリースは「Antigravity」、「Le Connaisseur」といった独創的なテーパーデザインの竿を次々にリリースします。

 
 
 日本でフリース竿というと、「Mahagonny」や「Noodle」が取り上げられることが多いのですが、これらの竿は後日紹介するように、非常に趣味性の高い竿ですので、日本の渓流に最適な実用的な竿として、私はKatanaシリーズをお勧めします。おそらくフリースの竿を振ったことのない方が、Katanaシリーズの竿を振ると、バンブーロッドでこんなアクションの竿ができるのだと驚かれることと思います。
 
 さて、Katana 704ですが、これは将に日本の渓流でのドライフライの釣りに最適な竿です。おそらく、私が所有してきた竿の中で、一番多く使ってきたのはこの竿だと思います。
 
 至近距離では、ティップを使って正確なピンポイントキャストができ、遠投時はバットを使って楽々とロングキャストが可能です。竿の重量バランスのせいか、無駄のない最小限の力でキャスティングできるせいか、この竿を使って釣りをしていると、あたかも竿と持たずに釣りをしているような、不思議な感覚になります。
 
また、細身のバットの割には意外とパワーがあるのも特徴の一つで、大きな鱒を掛けても楽々とやり取りができます。

 Katana 704の極初期の竿は、4番、5番指定の強いファストアクションの竿だったようですが、すぐにテーパーが改良され、私の竿は4番ラインがぴったりのKatanaシリーズの中でも極めて完成度の高い竿になっています。


 フリース竿は、私の釣りの師匠でもあり、また人生の師匠でもある菊地さんと私を繋いでくれた竿でもあり、私にとっては思い入れの強い竿なのですが、その中でもKatana 704は特に思い入れの強い竿です。

2018年3月24日土曜日

Russ Peak(その3)Zenith PGG 7'10"


 ラス・ピークの第3回目は、Zenith PGG 7'10"を紹介します。

 Zenith PGGは、2ピースのティップセクションがグラファイト、バットセクションがグラスという非常に珍しい竿です。
 ティップセクションがグラス、バットセクションがグラファイト、もしくはマルチピースでティップセクションほど低弾性率のグラファイト、バットセクションほど高弾性率のグラファイトと、弾性率をバットほど高くした竿は、比較的良く目にすることができます。これは、グラファイトロッドで主流となっている、プログレッシブティップアクションの竿に良く見られ、ティップを低弾性率の素材にすることにより、ティップが良く動くことを狙ったものだと思われます。
 しかし、Zenith PGGでは、ティップセクションに高弾性率のグラファイト、バットセクションに低弾性率のグラスを使用しています。
 これは2つの理由が考えられます。1つはグラスロッドの弱点を解決するアプローチで、パラボリックアクションに設計した際に、重くて曲がりやすいティップセクションを軽くて曲がりにくいグラファイトにすることにより、持ち重りを解消し、よりシャープなアクションを狙った考え方です。
 もう1つはグラファイトの弱点を解決するアプローチで、硬くて曲がりにくいバットセクションをグラスにすることにより、曲がりやすくするというものです。
 あるいは、この両方を狙ったのかもしれません。


 グラファイトとグラスという異なる素材でできたセクションを接続するため、この竿はメタルフェルールが使用されています。グラスとグラファイトではティップセクションエンドとバットセクショントップで、当然竿の直径が大きく異なるわけですが、この竿はティップセクションエンドが大きくフレアしており、この直径の差の問題を解消しています。

 さて、ここまでお読みいただいた皆さんは、このような異なる素材でできたティップとバットを組み合わせてスムーズなアクションが得られるのかと、疑問に思われると思います。
 ところが、ラインを通してキャストすると、異なる素材を組み合わせた竿とは全く思えないスムーズな段差のないアクションで、気持ちの良いキャスティングができます。

 ラス・ピークのグラファイトロッドの多くは、3番手のライン番手指定を特徴としますが、この竿は竿にもロッドケースにもライン番手の記載がありません。私の知る範囲では、ラス・ピークのグラスロッドは番手の記載がないようで、竿のライン番手は注文者とラス・ピーク本人だけの密かな秘密なのかもしれません。
 私はWF-5が一番適していると思うのですが、7'10"というグラスバットの竿では比較的長めの竿ということもあり、ラインを長めに出して、ゆっくりとしたストロークでライズを狙うような釣りに最も適していると思います。


 この竿はラス・ピークのグラスロッドと同じラスピーク独自のブラウントーン・フィニッシュがブランク全体に施されており、ダークブラウンを基調にゴールド、カッパー、シルバーを組み合わせたガイドラッピングも、非常に美しく、凝ったものになっています。

 この竿は、フライフィッシングマニアの中では有名なAlchemy TackleのKさんから譲っていただいたものですが、私が所有しているラス・ピークロッドの中でもお気に入りの1本で、私の宝物でもあります。

2018年3月17日土曜日

Russ Peak(その2)Zenith Graphite


 ラス・ピークの第2回目は、Zenithのグラファイトロッドです。

 ラス・ピークは、顧客の好みに合わせて1本、1本アクションを調整していたと言われていますが、少なくとも私が所有しているロッドに関しては、どの竿にも共通するラス・ピークアクションとでも表現すべき、一貫性があります。

 私が思うラス・ピークのグラファイトロッドの最も優れた点は、その優れたキャスティング能力です。これは単に遠投能力に優れるという意味ではなく、どんな長さのラインであっても、どんな振り方をしても、スラックのないきれいなループが形成できることを意味しています。
 フライロッドは、その素材によらず、どんな竿でも大なり小なり癖といういものがあり、言い換えるとそれがその竿の個性にもなっているわけですが、その癖(個性)に合わせて、キャスターが竿の振り方を調整する必要があります。例えば、ティップアクションやファストアクションの竿は、短いストロークを要求し、パラボリックアクションやスローアクションの竿は、長いストロークを必要とします。これはティップが直線的な軌道を描くため、また竿を効率よく曲げるために必要な動作であり、キャスティングの物理的な原理に従った動作です。

※このブログでは同じ負荷に対し竿のどの部分が曲がりやすいか(ベンディングカーブ)をティップアクション、パラボリックアクション、バットアクションといった表現で表し、負荷に対し竿が曲がる速さ、曲がった竿が戻る速さが早いか遅いか(ロッドスピード)を、ファストアクション、スローアクションといった表現で表します。フライロッドは、テーパーデザイン、使用している素材によって、ペンディングカーブやロッドスピードが変化し、その変化は連続的ですので、すべての竿がいずれかに分類されるわけではなく、便宜上相対的な表現として用いています。

 フライキャスティングの上手な人は、どんな竿でもその竿のアクションに合わせた振り方ができる人と言い換えることができると思います。

 しかし、ラス・ピークのグラファイトロッドは、ラインの長さ(負荷)や振り方に対する許容範囲が極めて広く、キャスターが竿に合わせる必要がありません。かといって、無個性な面白みにかける竿かというと、そんなことはなく、本当に気持ちよくきれいな形のループが飛んでいくので、キャスティング自体が楽しい竿です。

 なぜこのようなことが可能なのか?その秘密は、竿の全体の中で相対的に弱い部分や強い部分がなく、キャスティング時にロッド全体が機能するように設計された優れたロッドデザインにあると考えています。
 ラス・ピークのグラファイトロッドのアクションを一言で表現するとすれば、強めのプログレッシブ・パラボリックアクションと言えます。ここでプログレッシブアクションとは、竿の曲がりの起点がラインの負荷に応じてティップ側からバット側に移行するアクションを示し、パラボリックアクションとは少ない負荷でも比較的バットが曲がりやすいアクションを示しています。パラボリックアクションとバットアクションは異なるのですが、これはまた別の機会に書きたいと思います。

 ラス・ピークのグラファイトロッドを継いで素振りすると、ほとんどの人が指定のライン番手に対して硬い(強い)と感じると思います。これは、ずいぶん前からグラファイトロッドで主流となっているティップの繊細な(柔らかい)プログレッシブだけどティップアクションの竿とは異なり、ティップがこれらの竿に比べ相対的に太めで曲がりにくくいためです。
 バットが曲がりにくいティップアクションの竿は、短いラインでもティップが良く曲がるのでキャスティングしやすいのですが、ラインが長くなってもバットが曲がりにくいので、短く速いストロークでラインスピードを上げてキャスティングする必要があります。ラス・ピークのグラファイトは、短い距離からバットが曲がり始めるため、フライラインを投げるという目的に対して、竿全体が働いているいるように感じます。ここでライン負荷に対し、竿全体が弱すぎると、ロングキャスト時に竿が曲がりすぎるため、竿を極端にゆっくり振らないといけなくなりますが、ラス・ピークの竿は竿全体が強めに設計されているため、そのような必要はありません。

 ラス・ピークのグラファイトロッドは、例えば3-4-5番など、3番手のライン番手指定であることが特徴であると良く言われていますが、私が所有している竿の中には、2番手のライン指定のものもあります。ラス・ピークのグラファイトの中でも、2番手のライン指定のものは、3番手のライン指定のものよりも、ややティップアクションよりとなっています。私は以前から、バンブーロッドも含め、上手く設計された竿であれば、ティップアクションよりもパラボリックアクションの方が、ライン番手に対する許容範囲が広いと感じていましたが、ラス・ピークの竿は、まさにそれを裏付けるものだと思っています。

 ラス・ピークの竿は、グラスロッドも含め、スレッドのラッピング後にブランク全体に何層もエポキシ樹脂を塗り重ねた全塗装が特徴の1つですが、このロッドフィニッシュは竿の美観を上げるだけでなく、ロッドアクションに少なからず影響を与えていると思われます。
 プログレッシブ・ティップアクションの竿は、短くて速いストロークでラインスピードを上げることにより、ラインの運動エネルギーを大きくして竿を曲げるようにデザインされています。そのため、竿を速く振るためにロッドはなるべく軽い方が良いと考えられます。バンブーロッドのようにブランクの比重が重い場合は、ライン負荷に加え、竿の自重自体で竿が曲がります。ラス・ピークの竿はグラファイトでも80年代の竿ですので、近年のグラファイト素材に比べると、弾性率が低く重い素材です。ラス・ピークの竿は、竿の重量をうまく使って少ない力(遅いストローク)で、竿全体を曲げてラインをキャスティングする設計になっているので、肉厚の弾性率の低い素材に加え、厚いフィニッシュもロッドの自重を上げる役割を果たしているのかもしれません。


 ラス・ピークの竿は、スレッドラッピングも非常に凝っており、前記した全塗装のフィニッシュと併せて、コスメの美しさも特徴の一つに挙げられます。

 これまで述べてきたように、ラス・ピークのグラファイトは、極めて完成されたロッドアクションと優れたキャスティング能力、そして美しい外観を兼ね備えた素晴らしい竿なのですが、日本の渓流で小さなヤマメやイワナを相手にするとなると、残念ながら竿が強すぎて面白みにかけるかもしれません。
 また、7Xや8Xといった極細のティペットを使用するような釣りでは、ティップが繊細な竿の方が、合わせ切れや、やりとり中のティペット切れを防ぐ点で、適していると思います。
 日本人にとっては、グリップが少しごつ過ぎるのも、難点かもしれません。写真では分かりにくいのですが、3-4番指定の竿でもグリップの全長が25cm近くあります。

 グラファイトロッドの素材は、年々どんどん改良され、より軽くて弾性率の高いものになっていますが、ラス・ピークの竿を振ってみると、ロッドアクション、ロッドデザインという点では、すでに30年以上前に、完成されていたように感じざるを得ません。



2018年3月11日日曜日

Russ Peak(その1)


 個人的名竿紹介の1回目は、伝説のカスタムロッドビルダー、ラス・ピーク(Russ Peak)です。

 私がラス・ピークを初めて知ったのは、1984年頃のフィッシング誌に掲載されたアーキストリアル(Archistrial)羽田氏のラス・ピーク工房訪問記でした。その記事はまだ高校生になったばかり(?)の私の記憶に鮮明に刻まれ、いつかは手にしたいと強く思うようになりました。
 始めて実物を目にしたのは、就職した年の4月、研修先の名古屋のプロショップでした。その時はロッドラックに他の竿と一緒に無造作に立てかけてある竿を偶然見つけ、店主とその竿について短い会話を交わしただけでした。
 手に取ることができたのは、私のフライフィッシングの師匠である北海道のK氏の自宅で、K氏がオーダーした7フィート7インチ、#3-4-5のZenith Graphteが最初の1本でした。フライフィッシングのエキスパートでバンブーロッドにも大変造詣の深いK氏から、キャスティング性能という点では、この竿が一番と言って見せていただいた竿でした。その時は残念ながら、ラインを通してキャスティングすることはできませんでしたが、素振りした印象は強烈で、いつかラス・ピークの竿を所有したいという思いがに確信に変わったのを覚えています。

 私はバンブーロッドに関しては、ビルダー本人に直接オーダーして購入することをルールとしていますが、ラス・ピークについては、私が氏の竿を入手できる状況になった時は、既に他界されていたということもありますが、例外的にオークションや海外のビンテージタックルショップから購入してきました。それくらい思い入れの深い竿でもあります。

 さて、肝心のフライロッドとしての性能ですが、K氏の言葉通り、キャスティングに関してはピカイチであり、グラファイトでこれ以上にキャスティングして気持ちの良い竿は私の知る限りありません。

 具体的にどう優れているのかについては、次回のブログでご紹介したいと思います。

Introduction

 私がフライフィッシングを始めたのは、1983年、中学3年生の冬でした。
 私の故郷は鮎釣りの盛んな町でしたが、当時フライフィッシングを趣味としている大人はおらず、ダイワのルアー、フライの本、釣りキチ三平のフライフィッシングの回、月刊フィッシング、当時創刊されたばかりのアングリング、ジム・グリーンのキャスティングの教科書などが貴重な情報源でした。当然、フライキャスティングやフライフィッシングを生で見る機会はなく、これらの本、雑誌の限られた情報をもとに、一緒に始めた数人の友人達と独学で試行錯誤が続きました。
 そのようにして始めたフライフィッシングでしたので、私にとってフライロッド、フライキャスティングは随分長い間、謎そのものでした。

 それから時が経ち、就職して収入を得るようになると、グラファイトに始まり、グラス、バンブーと、理想の竿を求めて散財する日々が続きました。さすがに所帯を持ってからは、自由になるお金が極端に少なくなり、いらない竿を処分しては新しい竿を買い求めることとなりましたが、これまでに数えきれないほどの竿を入手してきました。
 長い間、フライフィッシングを続けているうちに、何度かフライフィッシングブームというものがあり、ビデオ、DVD、インターネットの普及も相まって、今では誰でも簡単にフライロッドやフライキャスティングの情報を手に入れることができるようになりました。私自身も多くのフライフィッシングの先輩、友人との出会い、そして散財のおかげで、少しはフライロッド、フライキャスティングというものが理解できるようになりましたし、良い竿や自分の好みの竿の基準というものが、少しは理解できたように思っています。

 そんな私の長年に亘るフライロッド探究の中で、いくつもの素晴らしい竿との出会いがありましたので、このブログではこれらの私にとっての名竿を紹介していくとともに、ロッドビルディングやフライ、そしてフライフィッシングについて、気の向くままに記していきたいと思います。

 あらかじめ断っておきますが、これまでに世に出たフライロッドの数に比べ、私の所有した竿の数なぞたかが知れていますし、バンブーロッドに関しては、現役ビルダーから直接購入することを私の中のルールとしていますので、GarrisonもYoungもHowellsもPayneもLeonardも所有したことはありません。また、あくまでも私の個人的な基準に基づいたセレクションですので、「なんで俺の好きな〇〇が紹介されないんだ。」とか、「あの世界的に誉れ高い〇〇が紹介されないんだ。」とか、憤慨される方がおられるかもしれませんが、何卒ご容赦のほど、お願いいたします。