2018年10月27日土曜日

Bjarne Fries(その8)The Gusty (S type)


 ビヤーネ・フリースの最終回(?)は、ガスティ、7フィート6インチ、5番を紹介します。この竿は私にとって、特別な意味を持つ竿です。

 この竿は、私の釣りの師匠であり、かつてフリース竿を日本に紹介されていた、菊地悦夫さんから生前に譲り受けたもので、ガスティの中でも特殊なモデル、ストロングタイプ(ストロング・ガスティ)になります。ストロング・ガスティは、菊地さんのオーダーでフリースが開発したモデルですが、この竿は正にその最初の竿です。
 菊地さんによると、ストロング・ガスティを4番仕様でオーダーされた方がおられたそうですが、5番仕様のストロング・ガスティは、このモデルがリリースされてからも1本もオーダーがなく、おそらくこの竿が最初で最後の1本とのことでした。


 オリジナルのガスティ(突風、風が強いの意)は、その名前の通り強い風が吹く状況でも風に負けない力強いループが投げられる、強めのセミパラボリックアクションの竿ですが、ストロング・ガスティは、菊地さんが20ヤード先の鱒をドライフライで釣るためにオーダーしたガスティの強化版です。

 ガスティとストロング・ガスティを比較すると、ティップセクションはストロング・ガスティの方が細く、逆にミドルからバットにかけては、太くなっています。その差は数値にするとほんの僅かな差なのですが、この2本の竿は全く別のアクションです。
 ガスティは強めのセミパラボリックアクションですが、ストロングガスティはセージやウィンストンのグラファイトロッドのようなよりティップアクションよりのプログレッシブアクションです。
 バンブーロッドとしてはかなり強い(硬い)竿で、試したことはありませんが、一般的には6番でも良いと思えるほどです。


 ストロング・ガスティの開発過程において、ハーモニアス(The Harmonious)というガスティと同じ7フィート6インチ、5番の竿が生まれ、これは初めて日本にCDCを紹介したことで有名なスイスの宮崎泰二郎さんが気に入られ、Katana 765と名前を変え、フリース竿のラインナップに加わりました。フリース竿に、7フィート6インチ、5番の竿が3本もラインナップされていたのは、このような経緯によるものです。ちなみにハーモニアス(Katana 765)は、Katanaシリーズに共通した繊細なティップ、強めのミドル、スローテーパーのバットを持った、フリースの7フィート6インチ、5番の3本の竿の中で、最も繊細な竿です。


 この竿が製作されたのは、1990年頃だと思いますが、この頃のフリースは本当に細部まで神経の行き届いた丁寧な仕事をしており、このストロング・ガスティも研ぎ澄まされた日本刀のように張り詰めた緊張感を感じさせる、素晴らしく、美しい仕上がりです。

 この竿は、私には強すぎて使いこなせないので、実のところ菊地さんから譲っていただいてから一度も釣りに使っていません。私はヤング系のパラボリックアクションが好きなので、この竿は好みのアクションとは言えないのですが、菊地さんがお亡くなりになった今となっては、この竿は云わば私にとって菊地さんの形見のような竿なので、一生手放すことはないと思います。
 もし私が将来ニュージーランドに行って、60cmオーバーのニジマスやブラウンを釣る機会があれば、間違いなくこの竿を選ぶでしょう。


2018年10月20日土曜日

Bjarne Fries(その7)The Antigravity #5


 今回はビヤーネ・フリースのバンブーロッド、アンチグラビティ#5、8フィート6インチを紹介します。

 アンチグラビティは、8フィート6インチの長さは共通で、2、3番から6,7番までのライン番手の異なる複数のモデルがあり、今回紹介するアンチグラビティ#5だけが、短番手指定で、他のモデルは2番手指定となっていました。


 バンブーロッドは、その素材の特性上、長くてバランスの良い竿を作製するのが極めて難しいのですが、フリースはこのアンチグラビティシリーズにおいて、テーパーデザインを工夫することにより、この問題をかなり解決しています。
 今回紹介した竿は3ピースなので、その特徴が分かりやすいのですが、アンチグラビティは、スローテーパーのティップセクション、ファストテーパーのミドル、バットセクションからなり、ミドル、バットセクションはバットに近づくほどテーパーがきつくなっています。これにより、竿の持ち重りをかなり軽減することに成功してします。


 テーパーや竿を素振りした印象では、ロッドスピードが速いように感じるのですが、実際にキャスティングしてみると、イメージよりも竿をゆっくり振った方が良いループができ、楽に遠投ができます。

 この竿は、Katana 736と同様に、全体のテーパーバランスにやや難があるようで、竿に合わせて少しキャスティングを修正してやらないと、テーリングが発生しやすく感じます。アンチグラビティの#5、6の2ピースモデルでは、意識しないでキャスティングしてもテーリングが発生しませんので、これは#5、3ピースモデル特有の問題のようです。


 この竿は、最初メタルフェルール仕様で注文したのですが、フリースの強い勧めでフリースが発明した六角バンブーフェルール(FIBHフェルール)仕様となっています。フリースのバンブーフェルールは、メスフェルールがかなり肉厚になっていますので、朝間さんの同タイプのフェルールや、北岡さんの竹フェルールに比べると、軽量化、フェルールの柔軟性というメリットは、あまりないように思います。

 この竿は、シルバークリークかヘンリーズフォークでの釣りを夢見て、16年前にオーダーしたものですが、その夢は未だ果たせず、もっぱら止水の管理釣り場のみでの使用となっています。
 私も若い頃のような海外釣行の気力がすっかり衰えてしまったので、その夢は果たせぬままになってしまいそうです。

2018年10月13日土曜日

Bjarne Fries(その6)The Noodle


 今回は皆さんお待ちかね(?)のビヤーネ・フリースのヌードル、8フィート、2、3番を紹介します。

 このヌードルは、フリースのラインナップの中でも日本では大変人気のあるモデルで、私が2012年にフリースの工房を訪れた時は、フリースが作製していた竿のうち、日本からの注文のほとんどがヌードルでした。
 ただし、この竿は前回紹介したハマゴニーと比べても遥かにマニア向けの特殊な竿です。


 フリースもこの竿をマハゴニーの2、3番と呼んでいたことがあるように、マハゴニーを2、3番用に繊細にしたようなアクションですが、これはもう素振りをすると竿が鞭のようにぐにゃぐなにしなる、これでキャスティングできるのかと思うほど、恐ろしく柔らかい竿です。
 ところが、ラインを通すと不思議にしゃきっと張りが出て、3番ラインどころか4番ラインでも投げられる不思議な竿です。

 羽舟さんや北岡さんの竿の中には、ヌードルよりもさらに極細のティップを持った竿もありますが、そのティップは極めて細く、バットまでスローテーパーな全体に細身のテーパーデザインです。スローテーパーといっても、パラボリックアクションではなく、プログレッシブに曲がりの起点がバットに移動するセミパラボリックアクションです。


 この竿で上手くキャスティングするコツは、極端に言えば竿を振らないことです。竿を振らなくても竿が勝手に曲がってくれますので、竿に合わせて最小限のストロークで竿をゆっくりと動かすことです。

 フリースはヌードルを使ってフルラインをキャストしますが、この竿で遠投するにはかなり特殊なキャスティングが必要です。私がフリースから指導してもらったヌードルの遠投方法については、以前フライの雑誌98号で紹介しましたが、簡潔に述べると以下のような方法です。

 まずバックキャスト、フォワードキャストのストロークは極めて短く、バックキャストでは竿を12時の位置、フォワードキャストでは12時か11時の位置で止めます。そして竿を止めた後に、伸びてゆくラインに合わせてゆっくりと、腕全体を使って竿がほぼ水平になるまで、大きくドリフトします。ドリフトの際、体は捩じらず、グリップが直線移動するように移動させます。
 竿を止めてからワンテンポおいてドリフトを開始すること、竿は振るのではなく、ラインの負荷を感じながら竿でラインを引っ張ることが重要です。


 ヌードルを渓流での釣り上がりに使用される達人の方もおられますが、一般的には不向きかと思います。私はもっぱら湯原温泉でのミッジの釣りに使用していました。今しずかなブームのオイカワの釣りにも良いかもしれません。

 ヌードルで大きな鱒をかけると、竿が極めて柔らかいため、ときどき不思議なことが起こります。ニンフだとフッキングしても根がかりしたかのように、しばらく鱒が動きません。かなりプレッシャーをかけて、ようやくゆっくりと動き出します。ドライフライを使っていても、まるで鱒が釣られていることに気が付いてないかのように、あまり抵抗しません。竿が柔らかいので、そもそも強引なやり取りはできないのですが、騙しだましやりとりすれば、不思議とすんなりランディングすることができます。


 私には極めて使用用途の限られる竿ですが、ヌードルにはヌードルでしか味わえない特別な個性がありますので、これからも手放さずにたまに釣り場持ち出すことになると思います。

 

2018年10月6日土曜日

Bjarne Fries(その5)The Mahagonny


 久しぶりにビヤーネ・フリースのバンブーロッドを紹介します。今回は、マハゴニー、8フィート、4、5番です。

 このマハゴニーという竿は、フリースの竿の中でも日本で人気のあるモデルで、その独特のアクションに虜になっている方も多いようです。
 マハゴニーは、フリースのラインナップの中でも比較的古くからあるモデルですが、私が2012年にフリースの工房を訪問した際、直接本人から聞いた話によると、この竿の独特のアクションは偶然の産物だそうです。この竿ができるまでのフリースのラインナップは、5番以上で7フィート台の硬い短い竿ばかりだったため、ミッジの釣り用に繊細で長めの竿が欲しいと思いデザインしたそうですが、フリース自身も最初はこの竿を良く理解できなかったそうです。


 この竿は、それ以前のフリースのモデルと同様に、ギャリソンのセミパラボリックアクションをベースにティップを繊細にしたものですが、4、5番指定の竿としては全体にかなり細めのテーパーです。そのため、ロッドアクションはスローで、ティップからミドルにかけて、かなり深く曲がります。バットはギャリソンの竿のように緩くて長いスウェルバットになっており、これは古くからあるモデルに共通の特徴です。


 スローでかなり柔らかい竿なので、この手の竿に慣れていない人がキャスティングすると、竿を振りすぎてしまい、激しくテーリングを起こしたり、ひどい場合は、思うように伸びないラインを伸ばそうと竿にさらに大きく振って、しっちゃかめっちゃかになってしまいます。
 しかし、竿の特性を理解し、竿の持つリズムに合わせて力を入れずにゆっくりと必要最小限のストロークで竿を動かすことができれば、スローで力のあるループが魔法の様に伸びてゆきます。この竿のキャスティングのリズムには独特な心地よさがあり、これがこの竿が多くの人を魅了する理由の一つだと思います。
 また、8フィート、4、5番竿の指定のバンブーロッドとしては、非常に軽量なことも魅力の一つです。

 フリースは、この竿は最初は5番、この竿を理解してきたら好みによって4番を使っても良いと言っていましたが、私は5番の方が好みです。


 この竿はミッジ用の竿として紹介されていましたが、適切なリーダー、ティペットを用いれば、空気抵抗の大きな大きめのドライフライにも充分使えます。私は#10のホワイトウルフを使ったりしていました。また、ウェットフライにも向いていると思います。
 釣り上がりのドライフライの釣りには、あまり向いていません。私は日中はKatana 704で支流を釣って、イブニングではこの竿に持ち替えて本流でライズを狙いような使い方をよくしていました。

 マハゴニーはフリースを代表する名竿として、過去に多くの方が紹介されていましたが、決して誰にでもお勧めできる竿ではないと思います。かなりバンブーロッドに慣れた人でないとこの竿を使いこなすことはできないと思いますし、スローな竿が嫌いな人には不向きです。
 もっとも、この竿に興味を抱くような方は、相当なマニアの方でしょうし、散々いろんなバンブーロッドを使ってきて、これまでにない個性的な竿が欲しいという方には、上手く好みに合えば手放せなくなる魅力的な竿です。