2021年3月27日土曜日

Shima Nets(その2)

 

 前回に引き続き、今回もシマ・ネッツのネットについて書きます。前回のブログで少し触れた、私にとって最初のシマ・ネッツである煤竹+黒柿のネットです。

 このネットは2010年に嶌さんにオーダーして作っていただいたものですが、フレームに使用する煤竹が非常に炭化の進んだものであったため加工時に割れやすく、何度も作り直しを行っていただいた曰く付きのネットです。
 そのため完成までに半年ほどかかりましたが、届いたネットは期待以上に素晴らしいものでした。


 フレームの素材は煤竹、グリップの素材は黒柿で、ともに日本で古くから珍重されてきた素材です。オーダーの際に茶道具のイメージでデザインをお願いしたのですが、正にわびさびを感じさせる仕上がりです。グリップにはフレームの先端から30.3cm(尺)の位置にニッケルシルバー製のドットが入っています。嶌さん曰く「茶室に夜空に浮かぶ銀月」のイメージです。ネットの素材も無理を言ってシルクにしてもらっています。

 このネットが出来上がってから10年間、大物狙いの釣り以外は常にこのネットを使ってきましたので、転んだりぶつけたりで擦り傷や打痕だらけです。その分愛着も一層深まり、お気に入りのネットになっています。
 使い込んだ分、より渋い風合いとなり、これはこれで良いのですが、新しいネットを入手したので、煤竹ネットには少し休んでもらい、嶌さんにレストアをお願いしている最中です。
 どんな新たな出会いが待っているのか、非常に楽しみです。


2021年3月20日土曜日

Shima Nets(その1)

 

 新しいランディング・ネットを購入したので、お気に入りの本の紹介を中断して紹介したいと思います。シマネッツさんのfcmちりめん梅です。

 シマネッツのネットを購入するのは2本目で、1本目はフレームに煤竹、グリップに黒柿を使ったオーダー品でした。このfcmは、いくつかあるシマ・ネッツを代表するモデルの1つで、フレームに竹尺を使っているのが特徴です。


 名前にある「ちりめん」は、シマネッツのもう1つのオリジナルデザインで、フレームの内側に文字通り「ちりめん(縮緬)」を貼ったものです。このネットでは梅柄のちりめんが貼ってあるので、「ちりめん梅」です。


 グリップの材質は、嶌さんによると神代楢ではないかとのことです。瘤や縮杢などの派手さはありませんが、とても落ち着いた雰囲気です。


 嶌さんは本業がデザイナー(?)なので、作られるネットも捻りが効いているというか、他のネットにはない独特のセンスを感じます。綺麗な杢目の素材を使って、工芸品的なネットを作られる方は日本に数多くいらっしゃいますが、嶌さんのようにアートと言えるような作品を作ることができる方は、非常に少ないと思います。

2021年3月13日土曜日

阪東幸成「MOSTLY BAMBOO」

 


 今回は前々回紹介した「アメリカの竹竿職人たち」の著者である阪東幸成さんの最新作、昨年12月に発売されたばかりの「MOSTLY BAMBOO」を紹介します。

 この本は「アメリカの竹竿職人たち」の続編といっても良い内容で、「アメリカの竹竿職人たち」がタイトルの通りアメリカの竹竿職人の工房訪問記であるのに対し、日本のフライロッド・メーカーの工房訪問記となっています。あとがきにも書かれているように、この本の目的は、海外のフライ・フィッシャーマンに日本のロッド・メーカーを紹介することであり、そのため全編英語で書かれていますが、日本の読者のために、日本語訳版もしっかり付録としてついています。

 タイトルの「MOSTLY BAMBOO」が示すように、紹介しているロッド・メーカーのほとんどは、個人のバンブーロッド・ビルダーですが、ファーガス、カムパネラ、ソリッド・オクタゴンといったグラファイト、グラスロッドメーカーも含まれています。

 章毎にテーマを決めてメーカーを紹介していく構成や、巻末にメーカーの作例がカラー写真で紹介されているところ、実際にメーカーの工房を訪問し取材した情報を元にまとめているところなど、「アメリカの竹竿職人たち」と同じ手法がとられています。
 阪東さん自身が撮影した本編中のモノクロ写真は、相変わらず素晴らしいです。巻末の
作例の構図は「アメリカの竹竿職人たち」とほぼ同じで、その竿の外観上の魅力が良く伝わってきます。

 他の阪東さんの著作と同様に、その文章は大変面白く、この本もあっという間に読み終えてしまいます。ただ、1つのメーカーあたりのページ数が「アメリカの竹竿職人たち」に比べると少なく、メーカーごとにテーマを絞って書かれているので、そのビルダーや竿の特徴が分かりにくくなっているように思います。
 また「アメリカの竹竿職人たち」では、各ビルダーの個性、人となりが、多少の脚色も含めてあからさまに描かれており、そこが一番の醍醐味となっていましたが、この本では同じ日本人という遠慮もあってか、そのあたりが少しあっさりしているように感じます。

 「アメリカの竹竿職人たち」と同じく、この本でも阪東さん自身がそのメーカーの竿を振ったり使ったりしたインプレッションがほとんど書かれていないので、その竿のアクションや性能的な特徴は、あまりよく分かりません。もっともこれは阪東さんが意識的にそうしているのかもしれません。

 前回紹介した「バンブーロッドのいま」では、ビルダー自身が何を意識して竿を作っているのか、どんな竿を目指しているのか、といったことをかなりの長文で語っていますので、そのビルダーの竿がどんな竿なのかは、そちらの本の方が良く理解できると思います。

 とは言え、この本がフライロッド関連の本として世界的にみても極めて面白い本であることは間違いなく、村田ロッド、角宏ロッド、前川ロッドといった歴史のあるビルダーから、バムロッド、竹本ロッド、ソリッド・オクタゴンといった革新的な新進気鋭のビルダーまでを紹介している点で、日本のフライロッドの現在を知ることのできる、非常に価値のある本だと思います。

2021年3月6日土曜日

渡渉舎編「バンブーロッドのいま」

 


 バンブーロッドに関する本の紹介の2回目は、渡渉舎から2007年に発行された「バンブーロッドのいま」です。

 前回紹介した「アメリカの竹竿職人たち」が、アメリカのバンブーロッド・ビルダーに焦点を絞った内容であるのに対し、この本は日本のバンブーロッド・ビルダーを中心に47人へのインタビューを書き起こしたもので、2007年当時の日本のバンブーロッド・シーンに焦点を当てたものとなっています。

 収録されているインタビューは、日本のビルダーが20人、海外のビルダーが1人(ビヤーネ・フリース)、フェルール職人が1人(ハリキ・フェルール)、アマチュア・ビルダーが2人、釣り業界関係者が3人、バンブーロッド愛好家が19人、その他が1人の計47人で、702ページにもおよぶ超大作です。

 ビルダーのインタビューでは、バンブーロッドを作り始めたきっかけから、竿作りの工程、どんな竿に影響を受けたか、どんな竿を目指しているかが、などがビルダー本人の口から語られており、本を読むだけでそのビルダーの竿がどんな竿なのか、更にはそのビルダーの技量まである程度想像がつくようになっています。

 この本も前回紹介した「アメリカの竹竿職人たち」に負けず劣らず大変面白く、興味のあるビルダーを中心に何度も読み返しましたが、特にビヤーネ・フリース、中村羽舟さん、島崎憲司郎さんのところは、本当に何度も何度も繰り返し読みました。

 残念ながらこの本も絶版となっており、新品で入手することはできませんが、日本のフライ・フィッシングの歴史に残る名著だと思います。