2019年5月25日土曜日

ユスリカのハッチマッチャー


 シマザキ・パターン繋がりということで、季節はずれではありますが、今回はユスリカのハッチマッチャーを紹介します。

 このフライを私が初めて目にしたのは、「水生昆虫アルバム」の初版でしたが、初出は「フライの雑誌10号(1989年)」だと思います。かれこれ30年前に生まれた相当古いパターンですが、名前の通りユスリカのハッチに極めて効果的かつ機能的にも非常に優れたフライです。

 このフライの画期的な点は、鱒に見せたいミッジ・ピューパ部とCDCのインジケータ部を分離し、しかもそれを1本のフックの中で、今まさにユスリカがピューパの殻から抜け出す瞬間、あるいは抜け出せずに脱皮殻を引きずっている状態として表現しているところです。このような構造とすることにより、鱒に見せたいピューパの部分は水面下に理想的な角度でぶら下がり、人間が見たいインジケータの部分は水面上に出るわけです。

 この手のミッジ・ピューパのパターンとしてよくあるのは、通常のミッジ・ピューパのパターンのヘッドにCDCを取り付けたものですが、実際に使ってみると浮力が持続しなかったり、視認性が悪かったり、フライの姿勢が安定しなかったりします。
 このフライは、これらの欠点を見事に解決しており、流れがある程度速いポイントでも充分に使用可能です。

 また、私が感じるこのフライの最大の利点は、鱒に見せたいピューパの部分は、フックベンド部のみに巻かれていますので、1サイズ大きなフックを使用することができ、それは即ち1サイズ太いティペットを使用できるということです。これは、極小のユスリカを捕食している大型の鱒をミッジ・フライで狙う際に、釣り人にとって大きなアドバンテージになります。


 昔の湯原温泉の自然鱒釣り場では、12月以降ユスリカが大量にハッチし、それに伴いライズも沢山見られたので、このフライを使って良い釣りができました。
 また、2002年の11月に釣行したアメリカのサンワン・リバーの最終日、Upper Flatsの少し上流のプールで、ライズしているニジマスを片っ端からフッキングさせるという会心の釣りができた思い出のフライでもあります。

2019年5月18日土曜日

ピカイチ シンプル ニンフ


 前回のフェザント・テール・ニンフに引き続き、今回もニンフ・フライを紹介します。今回は、島崎憲司郎さんのピカイチ・シンプル・ニンフ(以下PSN)です。

 島崎さんのニンフ・パターンとしては、このフライとアグリー・ニンフの2つが有名ですが、私の経験ではPSNの方が良く釣れるフライだと思います。
 このフライは、フェザント・テール、ハーズ・イアー、ピーコック・ハールという理屈抜きで良く釣れる3種類のマテリアルから構成されており、特定の水生昆虫のニンフに似ているわけではありませんが、一目見た時の虫っぽさと生き物感が良く釣れる理由の1つだと思います。

 ニンフ・パターンでは、より本物の水生昆虫に似せるために、テールを付けたりレッグを付けたり、ウィングケースを付けたりしたくなりますが、このフライのミソはマテリアルの質感とシンプルなシルエットで、不特定の水生昆虫の幼虫や蛹を表現している汎用性にあると思います。
 PSNはマダラカゲロウのニンフにも見えますし、カディス・ピューパやラーバにも見えるので、いろいろなサイズを揃えておけば、季節や場所を問わず使用できます。


 ノンウェイトで表層を流す使い方もできますが、私はレッド・ワイヤーをたっぷり巻き込んだものを使用しています。前回のフェザント・テール・ニンフは、主にサイト・フィッシングに使用しますが、PSNはある程度水深のあるポイントで、リーダーにヤーン・マーカーを付けてアップ・ストリームかアップ・クロスでブラインド・フィッシングで使っています。冬場ですと、PSNをシンカーの代わりに使用し、PSNのフックベンドにティペットを結んでミッジ・ラーバをトレーラーに結ぶ場合もあります。

 タイイングは、ソラックスを巻くときにマルチ・グルーを使うのがポイントで、マルチ・グルーを塗ったスレッドに、ステムからむしり取ったピーコック・ハールを少量タッチダビングし、その後にハーズ・イアーをタッチダビングし巻いていきます。この方法を用いると、ハーズ・イヤーを後からピック・アウトしなくても、ガードヘアやファーが飛び出し、自然な感じに仕上がります。

2019年5月11日土曜日

Pheasant tail nymph


 今回はニンフ・フライの中から、ハーズ・イアー・ニンフと並んで世界で最も有名なフライである、フェザント・テール・ニンフ(以下略してPTN)を紹介します。

 PTNはフランク・ソーヤー(Frank Sawyer)が発明した所謂ソーヤー・ニンフの中でも最も有名なフライです。ソーヤー・ニンフの特徴は、使用するマテリアルが少なく簡単に巻けること、シンプルですが水生昆虫の特徴を良くとらえたシルエット、そして優れた機能性の3つだと思います。

 フランク・ソーヤーのオリジナルのPTNでは、フライの名前の由来になっているフェザント・テール(雉の尾羽)とスレッドの代わりを兼ねたコパ―ワイヤの2つのマテリアルしか使用しません。フェザント・テールはサイズの問題から、大きなサイズは巻けませんが、そのファジーな色調に加えて、フライを巻いた時にフリューが立ち上がって水生昆虫の何ともリアルな質感を表現してくれます。またソラックスにぐるぐる巻きにされたコパ―ワイヤ―は、ウェイトの代わりになるとともに、フライにきらめきを与えるアクセントにもなっています。

 PTNがフェザント・テールとコパーワイヤーを使ってスリムに作られているのは、水生昆虫の形状を模擬するためだけでなく、機能的な理由があります。
 オリジナルのPTNはウェイトを巻き込まないので、フライの質量は小さいのですが、比重(体積当たりの重量)の大きなフライです。併せてスリムなシルエットなので、水の抵抗が小さく、着水後スムーズに沈下してくれます。そのため、見えている鱒を狙う時に、鱒の目の前にフライを上流から流し込みやすいという利点があります。

 私は渓流でヤマメ、アマゴ、イワナを釣る時は、ドライフライしか使わないので、ニンフは管理釣り場でしか使用しないのですが、PTNはニジマスが自然繁殖していることで有名な湯原温泉のニジマス釣り場で、見えている鱒をサイト・ニンフ・フィッシングで狙うのに良く使っていました。
 オリジナルのPTNのタイイングや、ソーヤ―・ニンフの使った釣りについては、平河出版社から出版されている「フランク・ソーヤーの生涯」という単行本に詳しく載っています。フランク・ソーヤ―関連の本は何冊か読みましたが、釣り人目線では、私が読んだ本の中では、この本が一番役に立つと思います。シャルル・リッツがソーヤーの釣りについて書いた文章も掲載されており、非常に参考になります。

 PTNはコカゲロウなどのスリムなカゲロウのニンフのイミテーションとして効果的ですが、アカマダラカゲロウやオナシカワゲラのニンフとしても使用できます。また、#20以下サイズは、ミッジピューパやラーバのイミテーションにもなると思います。
 私が良く使用するのは、#18と#20です。


 PTNには、フランク・ソーヤ―のオリジナル・パターン以外に、ソラックスにピーコック・ハールを用いたアル・トロースのパターンや、ウィング・ケースに使用したフェザント・テールを折り返してレッグにしたもの、ウィング・ケースにフラッシャブーを用いたものなど、様々なバリエーションがあり、どれも効果的なフライです。

 私も以前はオリジナルのフランク・ソーヤーのパターンに加え、これらのバリエーションも使用していましたが、雑誌で備前貢さんのPTNパターンを見て以来、もっぱら備前さんのパターンを使用しています。
 備前さんのPTNは、ソーヤーのオリジナルに近いのですが、アブドメンはフェザント・テールを巻き付けるのではなく、フックシャンクの背中にフェザント・テールを折り返して、コパ―ワイヤ―でリビングして巻き留めています。この方法だと、ボディーを細く仕上げることができますので、アブドメンは細く、ソラックスはポッコリという、メリハリの利いたシルエットが作れます。



2019年5月4日土曜日

TITE LINE DRY-FLY


 今回は私が使用しているフロータントを紹介します。タイトライン社のドライ・フライです。

 このフロータントを使用するまでは、私もご多分に漏れず、ティムコのシマザキ・ドライシェイクを使用していました。しかし、私の釣りの師匠である北海道の菊地さんにこのフロータントを教えてもらってからは、かれこれ20年以上これを使い続けています。

 このフロータントは顆粒状のフロータントで、ドライシェイクと同じくフライを乾燥させるためのシリカゲルと撥水性の成分から構成されているようです。ドライシェイクはシリカゲルとフッ素系と思われる撥水性の粉末が粒子のサイズの違いで明確に判別できますが、ドライ・フライは区別がつきません。

 ドライ・フライも最近はドライシェイクのように、フライをボトルの中に入れて蓋をしめ、ボトルをシェイクして使うタイプの容器でも販売されていますが、私は、もともとの使い方である、手のひらに乗せたフライに粉末をふりかけ、反対の手の指でフライに粉末を揉みこむ使い方をしています。
 処理を終えて手の平に残った粉末は、捨てることになりますが、ごく少量の粉末で十分な撥水性をフライに与えることができます。フロータント処理の度に新しい粉末を使用すること、フロータントを指で揉みこむことに加え、シリカゲルの成分が多いようで、フライを乾燥させる能力もドライ・シェイクに比べて優れています。

 昔、同じようなタイプのフロータントに、シーデル800というものがありましたが、ドライ・フライはシーデル800の会社の社長の息子が作ったと、以前何かで読んだ記憶があります。

 以前菊地さんのお宅で、ドライシェイクを始め様々なフロータントを施したフライをコップの水の中に強制的に沈めるテストを行い、浮力を比較したことがありますが、このドライ・フライがもっとも撥水性が強く、浮力の持続性も優れていました。


 このようにフライを乾かす、浮かせるといった性能面では非常に優秀なフロータントですが、欠点は手にフロータントが着くので、グリップが白く汚れてしまうのと、川の水で洗ったくらいでは手についたフロータントが完全にとれないので、釣りの帰りに車を運転する際に、ハンドルにごくわずかですがフロータントが付着することです。

 使用方法ですが、私はフライを交換したときは、まずペースト状のフロータント(C&Fデザインのパワーフロート)をフライに塗り込んだのちに、ドライ・フライを揉みこんでいます。ペースト状のフロータントは、リーダー、ティペットにも塗っておきます。ペースト状のフロータントを先に塗っておくのは、ドライ・フライが取れてしまった時の保険ようなもので、他のフロータントでも液体フロータントでも良いと思います。
 釣りをしていると、フライの浮力が落ちてきますので、フォルス・キャストで水を切り、残った水分をクロスに吸収させて取り除いたのち、ドライ・フライを揉みこみます。鱒を釣るとフライが完全に濡れてしまいますので、フライの水分除去を念入りに行ってから、ドライ・フライを揉みこみます。


 ドライ・フライは昔は写真のような小さな容器で売られており、この容器はフロータントを少量ずつ取り出せて便利だったのですが、最近は詰め替え用の大きな容器とドライシェイクタイプの2種類が販売されています。私は詰め替え用の大きな容器のものを購入して、昔の容器に詰め替えて使用しています。新たにこのフロータントを試してみたいと思った方は、百均に行けば、旅行用に化粧品やシャンプーなどを小分けで持っていくための、似たような容器を入手することができますので、これに詰め替えて使用することをお勧めします。

 フロータント処理の方法上、局所的にフロータント処理を施すことはできませんが、私はキャッツキル・パターンやエルク・ヘア・カディスなど、水面に高く浮くフライを好んで使用しますので、そのようなフライ・パターンには、非常に効果的なフロータントです。