2018年5月26日土曜日

R.W.Summers(その2)Midge 6'4" #4


 ボブ・サマーズの2回目は、Midge 6'4" #4を紹介します。

 この竿は、前回Model 735で書いたように、私の質問に対するサマーズの第二推奨のモデルで、Model 735が届いた後に注文しました。Model 735は最初3年待ちと言われて6年弱待ちましたが、この竿も4年待ちと言われてやはり6年ちょっと待ちました。サマーズもかなりのご高齢でしたので、正直今回のオーダーは無理かなとも思っていたのですが、届いた竿は全く衰えを感じさせないものでした。


 この竿もヤングが言うところの「Modified parabolic action」で、細めのティップと強めのミドル、スローテーパーで比較的曲がりやすいバットを持っています。Model 735は、平均サイズのヤマメ(アマゴ)、イワナには、ややオーバースペックですが、この竿はヤマメやイワナを釣るのに正にぴったりな竿です。

 テーパーデザインとしては、Model 735と同じModified parabolic actionですが、竿が短く強い焼き入れにより相当な張りがあるので、Model 735に比べるとキャスティング時にバットが曲がる感覚はあまり伝わってきません。ロッドスピードもかなり速いので、グラファイトロッドのように短いストロークでスパスパっとキャスティングするイメージです。バンブーロッドに慣れていない人でも、違和感なく振れる竿だと思います。

 ほぼ同じスペックのフリースのKatana 633(私の竿は、3番、4番ライン指定の初期のテーパーです)は、よく似たテーパーデザインですが、もっとしなやかで、ロッドスピードもこの竿に比べるとスローです。



 この竿も、やはりブランクは真っすぐではなく、良く見ると右に左にウネウネと曲がっているのですが、そんなことはお構いなしに、力強い真っすぐなラインが伸びていきます。
 極端なロングリーダー・ティペットの使用には向いていないのかもしれませんが、私は太くて短いリーダー、ティペットに、#14をメインに時には#12といったハックルを縦に巻いたキャッツキルスタイルのフライや、ハックルを3枚びっしり巻いた空気抵抗の大きなウルフパターンを多用しますので、そのような釣りをするには、非常に適した竿です。
 竿の長さとしては、もう少し長い方が使いやすく、魚を釣るという点では有利なので、いざ釣り場に持ち出すとなると、6フィート9インチ以上の竿に手が伸びてしまうのですが、敢てこの竿でどんな釣り場でも1シーズン通して使ってみようかと、そんな風に思わせてくれるほど魅力的な竿です。


2018年5月19日土曜日

R.W.Summers(その1)model 735


 フリースからの流れで、羽舟竿、北岡ロッドを紹介してきましたが、ここで雰囲気を変えてアメリカのビルダー、ボブ・サマーズを紹介します。初回はmodel 735、7フィート3インチ、4、5番です。

 サマーズに竿を注文するにあたって、私がどのような川で、どのような魚を、どのようなフライ、リーダー、ティペットで、どのくらいの距離をキャスティングして釣るのか、竿に求めている性能はどのようなものかをメールし、お勧めのモデルを質問しました。サマーズの竿を私が使うなら、735か6'4"ミッジだろうなと考えていましたが、やはりサマーズからの回答も、第一推奨が735、第二推奨が6'4"ミッジでした。

 第一推奨の735を注文して、最初3年待ちだと伝えられていたのですが、待てど暮らせど音沙汰がなく、5年後に痺れを切らしてそれとなく催促のメールをし、それから更に9か月ほど待ってようやく竿が届きました。


初めて手にしたサマーズロッドの印象は、それまで緻密で繊細なフリース竿や日本のビルダーの竿に慣れていた私には、かなり強烈でした。ブランクはまるで火事の焼け跡から拾い出してきたような強烈なフレームフィニッシュですし、竿も決して真っすぐではありません。ティップセクションなど、良く見るとウネウネと左右に曲がっています。それでも、竿が「それがどうした、文句あるか!」という強烈なオーラを発しているのです。

 さて、ラインを通してキャスティングしてみると、これがまた凄く、力強いループがぐグングンと真っすぐに伸びてゆき、竿が真っすぐでないことなど、全く影響ありません。
 以前のブログで、ラスピークの竿を私が持っているグラファイト、グラスロッドの中で、キャスティングが最も気持ちの良い竿と書きましたが、バンブーロッドの中では、この735が最もキャスティングして気持ちの良い竿です。私は、この735を好きなアクションの基準にしており、日本のビルダーに注文する際には、実際に振ってもらったり、説明したりしてきました。
 ただ、同じ735でも、やはり多少のばらつきはあるようで、同じモデルを持っている方にも振ってもらいましたが、その方の竿は私のものほどは良くないとのことでした。

 サマーズは初代ポール・ヤングの時代からヤングの店で修業していたので、独立して自身の名前で竿を作るようになっても、基本的にはヤングのパラボリックアクションを踏襲した竿を作っています。


パラボリックアクションと言うと、シャルル・リッツがデザインしたペゾンのPPPシリーズが有名ですが、ヤング、サマーズのパラボリックアクションは、ペゾンのそれとはまた別ものです(ヤングの本物は振ったことがないので、ヤングのコピーモデルを振った経験をもとに書いています)。
 相対的にミドルが強くて、バットが曲がりやすいというのは共通ですが、リッツのパラボリックアクションは、コロラドなどが典型ですが、ティップが太くて曲がりにくいので、低負荷でもバットから曲がり始めます。リッツは自分の著書「A Fly Fishers Life」に、ファリオ・クラブの曲線図を掲載し、パラボリックアクションついて説明していますが、負荷に応じて曲がりの起点が移動するプログレッシブアクションよりも、曲がりの起点は一定のまま、負荷に応じて曲がりが大きくなるアクションを理想としたようです(私の感覚では、実際のファリオ・クラブは、ペゾンの中では比較的プログレッシブアクションだと思いますが・・・)。
 一方、ヤング系のパラボリックアクションは、小さい負荷でもバットが曲がりやすいのは共通ですが、ペゾンほど極端ではなく(これもモデルによるようですが・・・)、ティップは意外と繊細で、曲がりの起点は負荷に応じて移動します。ヤングは1956年のカタログ「More Fishing Less Fussing」で、負荷の小さいときはティップが曲がるようにデザインされており、自らのパラボリックアクションは、本来のパラボリックアクション(ヤングは「full parabolic action」、「wet fly action」という表現を使っています)ではなく、「modified parabolic action」と述べています。

 ちなみに、ご紹介したリッツの著書とヤングのカタログは、現代の釣り人が読んでも非常にためになる名著だと思います。ヤングのカタログは入手困難で中古市場でかなり高値で取引されているようですが、リッツの本は確か昨年、日本語の復刻版も出版されたようですので、是非ご一読されることをお勧めします。


 サマーズの735は、4、5番指定で、私はWF5で使用していますが、DT4でも良いと思います。もちろんヤマメ(アマゴ)やイワナを釣るのに使っても、全く問題ないのですが、やはりオーバースペックなので、私はもっぱらニジマスやブラウンを釣ることを想定して、北海道釣行に使っていました。

 フリースのKatanaシリーズは、ヤング、サマーズのパラボリックアクションのコンセプトに近いと私は考えています。Katana 735は、サマーズの735と同じスペックですが、Katana 735の方がティップが繊細で、軽量かつシャープなアクションです。バットパワーもKatana 735の方が上です。

 サマーズ735は、ヤング系のパラボリックアクションが、私の好みであることを教えてくれた貴重な竿です。

2018年5月12日土曜日

北岡ロッド 7'3"、4番


 今回は、中村羽舟さんつながりということで、羽舟さんのお弟子さんでもある、京都在住の北岡勝博さんの竿をご紹介します。

 北岡さんとの出会いは、私がフリースの工房訪問記を投稿したフライの雑誌98号(2012年季刊冬号)に、島崎憲司郎さんが北岡さんの竿を紹介されていたのがきっかけでした。羽舟さんのお弟子さんということで興味を持ち、羽舟さんに電話して北岡さんの連絡先を教えていただき、コンタクトさせていただきました。
 そして、すぐに北岡さんの工房を訪問し、工房にある様々な竿を振らせていただき、長さとライン番手を指定して注文したのが、この真竹、7フィート3インチ、4番の竿です。


 北岡さんは基本的に真竹を使って竿を作られており、羽舟さんの真竹の竿と同様に、非常に軽量であるのが特徴の一つです。
 アクションは、相対的に強めのミドルと低負荷から曲がりやすいバットを持つパラボリックアクションで、近距離から遠距離までテーリングが発生しにくく、きれいなループが形成できるのも北岡ロッドに共通した特徴です。

 おそらく多くの方は、素振りした感覚では、指定番手が一般的な竹竿に比べて1、2番手重い(指定番手に対し、竿が柔らかい)と感じると思いますが、ラインを通してキャストしてみると、不思議と
指定番手ぴったりです。これは羽舟さんの竿にも共通の特徴ですが、北岡さんの竿はパラボリックアクションなので、特にその傾向を強く感じます。
 トンキンでこのような竿を作製すると、素材の重さからボテボテの持ち重りのする竿になりがちですが、真竹はその素材の軽さから、柳のようにしなやかなのに、張りのある軽量な竿になります。北岡さんは、このような真竹の特性を活かして、トンキンでは難しい5フィート代の超ショートロッドから、8フィート以上の低番手ロッド、バス用の高番手ロッドなど、さまざまな竿を作製しています。


 北岡ロッドは、羽舟竿よりも更に極細のティップを持つ、一般的な釣り人には扱いきれないような超マニアックなアクションの竿が多いのですが、私の竿は、北岡さんに私の所有する竿を何本も振ってもらったり、一緒に釣りをしたりして、私がどのような竿が好みなのか、どのような釣りをするのか、理解した上で作製していただいたので、北岡ロッドのパラボリックアクションはそのままに、北岡ロッドの中でも比較的ティップが太めで、扱いやすい竿になっています。

 北岡さんは羽舟さん同様、リールシート金具以外、ガイドも含めてすべてを手作りされており、その外観は、どこか羽舟竿やフリース竿を彷彿させる雰囲気ながら、非常に繊細さを感じるものになっています。
 フェルールは、オス側が六角のブランクのそのまま使ったもの、メス側がブランクと同じ真竹で作った別パーツを組付けたものとなっており、フリースのFIBHと羽舟さんの竹フェルールの両者の利点を組み合わせてものになっています。


 北岡さんは、芸大出身で、文化財の修復をされていたという異色のバックグランドをお持ちのため、伝統や継承を重んじる保守的なバンブーロッドの世界にあって、既成概念に囚われない竿作りをされており、島崎憲司郎さんとタッグを組んで、フラットグリップ(フライの雑誌100号参照)、Pバラスト(フライの雑誌99号参照)、逆ワン・アンド・ハーフ等の新しい試みを次々と試されています。

 先日キャスティングさせてもらった、未だ北岡さん以外誰もキャスティングしていないという7フィート9インチ、5番の最新作は、ティップ対面幅1mm未満、3番ライン相当のテーパーデザインにも関わらず、異形断面形状(詳細は秘密とさせてください)を始めとする、独自の斬新なアイデアにより、真竹とは思えないパワフルなぶっ飛び竿に仕上がっており、そのアクションは、これまでの北岡ロッドと異なるだけでなく、古今東西のどのバンブーロッドとも異なると思われる新しいものに進化を遂げていました。

 北岡ロッドは、あまりにも斬新過ぎて、今のところ超マニアの方からのみ注目を浴びているようですが、今後、常識を覆すどんなとんでもない竿を生み出すのか、本当に楽しみです。

2018年5月4日金曜日

中村羽舟(その2)女竹、8尺3寸、3番、4番


 羽舟竿の2回目は、女竹、8尺3寸(約8フィート3インチ)、3番、4番をご紹介します。

 この竿は前回ご紹介した真竹、7尺7寸が届いてすぐに注文したものです。
 羽舟さんの工房を訪問して、いろいろな竿を振らせていただいた中に、特に印象に残る竿がありました。それは、8フィート3インチ、3番、4番、2ピースの女竹の竿で、当時止水の管理釣り場で良く釣りをされていた、元フライの雑誌社の倉茂さん用に羽舟さんが作製した竿でした。
 竿は3番、4番指定になっていましたが、5番ラインがぴったりとのことで、ラインを通してキャスティングすると、その長さにも関わらず非常に軽く、ゆっくりとしたストロークから、まるでロケットを発射するがごとく、勢いのあるループが遥か彼方に飛んでいく、遠投が得意な竿でした。


 この竿は、倉茂さん用の竿を3ピースで作製してもらったもので、羽舟さんは2ピースを3ピースにすると、同じアクションにはならないよとおっしゃっていましたが、オリジナルの2ピースモデルとほぼ同様のアクションに仕上がっています。

 女竹のパワーファイバーは、トンキンと同じくらいの太さなのですが、トンキンと違い極く表面に密集しているので、6角形のブランクに仕上げると、真竹よりもパワフルで、トンキンよりも軽量なブランクになります。繊細な真竹の竿は、ヤマメやアマゴ用の竿に向いていますが、女竹の竿は、長めのトラウトロッドに向いていると思います。

 この竿は、指定番手の3番、4番ラインでも充分使用可能ですが、真価を発揮するのはWFの5番ラインを使用した場合で、竿のリズムに合わせてゆっくりと竿を振ってやると、力を加えなくても、楽々ロングキャストが可能です。

 テーパーデザインは、フリースのAntigravityに似ているように思いますが、素材の違いもあり、こちらの竿の方が圧倒的に軽く仕上がっています。


 3ピースで作製してもらったのは、海外での釣りを想定したものでしたが、残念ながら私はこの竿を止水の管理釣り場でしか使用したことがありません。機会があれば、いつの日か、アメリカのヘンリーズ・フォークかシルバークリークあたりで、この竿を使って釣りができれば良いなと考えています。