2021年7月3日土曜日

E. Garrison & H. B. Carmichael 'A Master's Guide To Building A Bamboo Fly Rod'

 


 今回はギャリソン&カーマイケルの「ア・マスターズ・ガイド・トゥ・ビルディング・ア バンブー・フライ・ロッド」を紹介します。

 この本は、これまでに発行されたバンブーロッド・ビルディングの解説書の中で、世界で最も有名な書籍であり、特に日本のバンブー・ロッド・ビルダーに最も大きな影響を与えた1冊だと思います。
 バンブーロッド・ビルディングの工程が、竹の選び方に始まり、リールシート金具、フェルールの作り方、果てはアルミケースや竿袋の作り方まで、豊富な写真と図を交えて詳細に解説されています。バンブーロッドの修理の方法まで記載されています。
 ギャリソンとカーマイケルの共著になっていますが、最後に載っている「六角竿の理論」以外の文章は、ギャリソンの弟子であるカーマイケルによって書かれたものです。

 ギャリソンの最も大きな功績は、ビベラーやミリングマシンなどの機械が必要なため、それまで企業や企業出身のバンブーロッド・ビルダーがほとんどであったバンブーロッド・ビルディングの世界に、プレーニング・フォームを使ったハンド・プレーンの手法を詳細に解説したこの本によって、多くの個人のプロ・ビルダー、アマチュア・ビルダーを誕生させたことだと思います。

 もう一つの大きな功績は、それまで経験と試行錯誤に頼っていたロッド・テーパーの設計を、「ストレス・カーブ」によりロッドアクションを定量化し、計算で算出可能にしたことです。
 「ストレス・カーブ」は簡単に説明すると、ロッド・ティップから一定の動的な負荷がかかった時(一定の加速度でキャスティングのストロークを行っている状態)に、ガイドやバーニッシュ、フェルールの重量も含めた竿の自重とラインの重量により、竿のティップから5インチ毎の各点に、どれだけの負荷(ストレス)が掛かるかを示したものです。

 ギャリソンのテーパー設計の手法では、ストレス・カーブさえ描けば、後は本に書いてある方法に従って計算することにより、自動的にテーパーが求まるようになっています。しかし、この本にはギャリソンのいくつかのモデルのストレス・カーブは紹介されていますが、肝心のどのようにストレス・カーブを描くかについての記述がありません。
 しかし、この本に書いてあるストレス・カーブからテーパーを算出する方法を逆算することにより、テーパーからストレス・カーブを計算することができます。
 私はExcelを使って、ストレス・カーブからテーパーを求める計算シートと、テーパーからストレス・カーブを求める計算シートを作成し、自分の所有する竿のテーパーを計測しストレス・カーブを求めることにより、ロッド・アクションとストレス・カーブの関係について理解を深めました。また、インターネット上では、銘竿と呼ばれるバンブーロッドのテーパーやストレス・カーブが公開されています。

 ギャリソンの手法においても、ストレス・カーブの設計に経験と試行錯誤が必要ですが、ロッド・テーパーの僅かな違いが、ストレス・カーブでは大きな違いとして表れてきますので、ロッド・テーパーよりもストレス・カーブの方が、その竿の持つアクションを理解しやすいと思います。また、ストレス・カーブを見れば、その竿に部分的に弱い箇所や強い箇所がないかどうかも良く分かります。
 また、ある程度経験が必要だと思いますが、同じアクションで番手や長さの違う竿、例えばヤングのパーフェクショニストを3番仕様にするといったことも可能です。

 今はインターネットで沢山の情報が入手できますし、この本を読んだことのないビルダーの方も増えていると思いますが、間違いなくバンブーロッドの歴史に残る1冊だと思います。

4 件のコメント:

hide さんのコメント...

この本の功罪は二通り.....先ず良い例はアマチュアビルダーの趣味の一定の指針になったという事。
逆の例はこの本の内容を曲解しマスプロダクションの竿を低く評価するフォロワーが発生した事かと思います。
そもそも最初から工業製品としてある程度まとまった本数を作る為機械化したものをワザワザ手削りに置き換えただけなのに話があべこべですよね。 
とあるビルダーに至ってはおこがましくも「機械削りなど手削りに遠く及ばない」なんて言ってましたがギャリソンとてペイン等の竿をたたきにして分析した訳ですから歴史あるマスプロ竿批判は本末転倒なんですよね。
さらに力学上ベターなテーパーがベストであるとはいかないのはキャスターに技量差と好みがあるからです。
ギャリソンの竿は高価...それは背景と希少性からくるものでそれは彼の竿を享受出来る恵まれた人のみのモノ......


Yoshiharu Utsumi さんのコメント...

確かにおっしゃる通りですね。ただ、2000年代頃から日本にも様々なバンブーロッドや情報が入ってきて、バンブーロッドに対する理解が深まったので、ハンドプレーンで作られた竿の方がマシンビルドの竿よりも優れていると思っている人も少なくなったのではないでしょうか。
ギャリソンの竿については、ビヤーネ・フリースが以前雑誌のインタビューで日本で初めてギャリソンの本物で釣りをしたときの感想を「長年憧れていた女性に出会えて大変感激したが、残念ながら彼女は理想の女性ではなかった。」と語っていましたね。私はギャリソンの本物は振ったことがありませんが、ギャリソンのセミパラボリック・アクションは、それほど優れたデザインだとは思いません。本物とコピーは別物とおっしゃる方もいらっしゃいますが・・・

hide さんのコメント...

全ての銘竿を所有するのは叶いませんが事あるごとに甘えさせて貰い過去に色々な竿振ってきた経験から銘竿所有者がキャスティング巧者とは限らず、それでも竿の評価は出来てしまうと言う事。しかしながらその高価な銘竿を所有出来うる財力は傷つけてはいけません(笑)竿は...特にヴィンテージはもはや魚釣る為だけに有らずな趣味品ですからね。
一時中期のレナードに凝って何本か所有してみましたが今現在はオービスに凝ってます。
ご存じのとおりオービスは生産本数と例のあの外見では値がつかず評価は低い。しかしながら語弊を恐れずに言わせて貰えばオービ竿のアクションは他の銘竿に比べても何ら引けを取らずかなり良いと言う事。「誰も真似できない....」とするロン・クーシーのテーパーとなんら変わらないモデルもあったりしますから。

色々考えあろうかと思いますが西洋毛鉤鱒釣竹竿は機械削りが本流であり手削りは設備投資出来ない個人ビルダーと自分で楽しむアマチュアビルダーの為...というべきであり手削り>機械削りでは決してない....と言う事が我が国でもギャリソン信仰呪縛からやっと離れ、理解されてきたかなぁと思いますね。

Yoshiharu Utsumi さんのコメント...

オービスのバンブーは残念ながらデロンデロンの7'6" 5番のミッジしか振ったことがありません。フリー、セブン・スリー、セブン・フォーなど、日本で人気の竿も多いですね。機会があれば是非振ってみたいものです。