2022年7月9日土曜日

島崎憲司郎「水生昆虫アルバム」


 今回のお気に入りの本の紹介は、島崎憲司郎さんの「水生昆虫アルバム」です。

 島崎憲司郎さんと言えば、TMCフックのデザイナーとして、マシュマロ・パターンをはじめとする革新的なオリジナルフライの考案者として、ドライシェイクやフライウィング、ホットワックスといったフライ用品、タイイングマテリアルの考案者として、フライ・フィッシングを趣味としている方なら誰もがご存知のフライ・フィッシャーマンで、フライの雑誌やフライの雑誌社から発行された単行本などに多くの優れた文章を寄稿されていますが、意外なことにこの「水生昆虫アルバム」が今のところ唯一の著書です。

 この本の初版が発行されたのは1997年ですが、フライの雑誌にこの本の出版が発表されてから実際に発行されるまで随分と時間がかかり、私も当時未だか未だかと心待ちにしていたのを覚えています。そして遂に発売されたこの本は、予想を大きく超えるボリュームといくつかの新たな概念を提示する画期的なものでした。

 この本はフライの雑誌に連載されていた「水星昆虫アルバム」をまとめたものですが、単行本としてまとめるのにあたり、第一部(Part 1)が新たに書き下ろされており、(1)イマージング・ガスに基づくイマージャーの分類、(2)羽化の形態によって分類したハッチ・コード、(3)水面と昆虫の絡み方によって分類したBFコード(Basic Floatation Code)という、フライ・フィッシャーマンの視点でフライをデザインする際に極めて重要な3つの分類が示されています。

 第二部(Part 2)は、フライの雑誌に連載されていた「水生昆虫アルバム」を加筆してまとめたもので、日本の渓流や湖でポピュラーな23の水生昆虫が、多くのカラー写真とともに紹介、解説されています。その写真は昆虫の単なる生体写真ではなく、一体どうやって撮影したのだと思うようなハッチの瞬間の写真であったり、ライブ感覚に溢れる釣り場での現場写真の数々です。水生昆虫の写真も、それまでの水生昆虫の本によくあったスタジオで撮影したようなものとは異なり、現場で撮影されたものが多く、屋内で撮影されたものでも自然光で見るのに近い色調が再現されているので、我々が実際の釣り場で目にするのに近いリアルな写真となっています。
 また、各水生昆虫の頁は、始めに見開きでハッチの形態をBFコードとともに示したイラスト、ハッチチャート、各ステージ(カゲロウであれば、ニンフ、ダン(雌雄)、スピナー(雌雄))の実物大のイラストと実物大のフックのイラストが掲載されており、この2ページだけでも大変な情報量です。

 日本の渓流で大変ポピュラーで重要な春の代表的な水生昆虫であるオオクママダラカゲロウが掲載されていないのが個人的には唯一残念ですが、世界的に見てもこれまでになかった画期的な内容の本であり、フライ・フィッシャーマンのための水生昆虫の書籍としては、今後これ以上の本は発売されないのではないかと思います。

 島崎さんの書籍としては、第二弾としてフライの雑誌社から「シマザキ・フライズ」が発行予定ですが、これも例によって発行が遅れています。近いうちに発行予定のようですが、間違いなく期待を裏切らない、いや想像を遥かに超えるびっくりするような内容の本になるのではないかと楽しみにしています。

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