2018年11月3日土曜日
菊地悦夫 Infinite 7'6" #4
今回は菊地悦夫さん作のバンブーロッド、Infinite 7フィート6インチ、4番を紹介します。今回は少し長文になります。
菊地さんは、フリースロッドの日本での販売に初期の段階で協力されていた方で、昔からこの釣りをされている方の中には、古くはアングリングや初期のフライの雑誌で、その素晴らしい記事の数々を目にされた記憶をお持ちの方も多いと思います。札幌のフライショップ、テムズを開業された方でもあります。
菊地さんとは1997年からフリース竿がきっかけでお付き合いさせていただくようになり、それ以降亡くなられた年まで、毎年夏には御自宅にお邪魔し、一緒に釣りをさせていただきました。菊地さんには、私が人生の岐路に立たされた時にも何度か助けていただき、フライフィッシングだけでなく、人生の師匠のような存在でもありました。
菊地さんと私はちょうど20歳年が離れていましたが、菊地さんには最初の奥様の連れ子で生き別れになった私と同じ歳の息子さんがおられたので、心のどこかで私を息子のように感じていただいていたのかもしれません。
菊地さんはフライフィッシングを初めてから、レナードを始めとする数々のバンブーロッドを使用してこられ、その後故川野信之先生の紹介でフリース竿に巡りあり、フリースも菊地さんとの出会いを通じて、Katanaシリーズを生み出します。菊地さんは、半分自身が開発したといっても過言でない、Katana 735を数本使いつぶすほど愛用されていましたが、それでも菊地さんの理想を100%満足するものではありませんでした。
私が菊地さんと出会って何年か経ったころ、当時私はGarrisonのストレスカーブ計算を逆算してテーパー(六角の対面幅)からストレスカーブを計算するExcelシートを作成し、所有している竿やネット上で公開されている過去の名竿のテーパーからストレスカーブを計算することに凝っており、菊地さんにもよくその話をしていました。
菊地さんは以前から竿の断面積からテーパーを設計する独自の方法を考え出しておられ、これは前回紹介したストロング・ガスティ―の開発にも生かされているのですが、Garrisonのストレスカーブの考え方には最初疑問を持たれていました。
何通もの手紙でのやりとりや、菊地さん宅を訪問した際の議論で、フリース竿や過去の名竿のストレスカーブを示して説明するうちに、菊地さんもストレスカーブの有用性を認識され、オリジナルテーパーを私が作成したExcelシートを使って計算されるようになりました。
そして自身でバンブーロッドを作製されるようになり、完成した竿が今回のInfiniteです。
この竿は菊地さんが自身の釣りで竿に要求する要素を100%具現化したもので、道南の渓流でのドライフライの釣りにおいて、20cmほどのヤマメから50cmを超えるニジマス、ブラウン、アメマスまで対応できるように設計されています。
テーパーデザインは、至近距離から20ヤードを超えるロングキャストまで全てのレンジにおいて少ない力でスムースなキャスティングができるように、ティップからバットにかけてストレスがなめらかに低下してゆく、ファストテーパーに設計されています。菊地さんは、レギュラーグラファイト時代のウィンストンに近いとおっしゃっていましたが、ストロング・ガスティをしなやかにしたような竿とも言えます。
菊地さんは、ドライフライの釣りは、タイトループ、スローラインのキャスティングとおっしゃっていましたが、正にそのようなキャスティングを実現するためのテーパーデザインで、最小限かつゆっくりしたストロークでスロースピードのタイトループが作れる竿になっています。
この竿は羽舟さんや北岡さんにも見ていただいたことがありますが、やはりお二人の好みからは、竿が強すぎたようです。
フリースが使用していたトンキンケーンは、菊地さんが中国からコンテナで大量に輸入したものですが、この竿にもその時輸入した良質のトンキンケーンが使用されています。
鮮やかな赤のラッピングは、一人で渓流で釣りをしている時にも陰鬱な気持ちにならないように選択されたものです。
菊地さんは、Infiniteの完成後、本格的にロッドビルダーとしてデビューすることを考えておられましたが、10ミクロンの精度でテーパー設計通りに作製することに拘るなど、作製に時間がかかりすぎることもあり、残念ながらこのInfiniteは、最初にご自身用に作製した1本と菊地さんのごく親しい友人向けに数本が製作されただけに終わりました。
この竿は、贅肉をそぎ落とした無駄のないテーパー設計ですが、遠投性、北海道で時に対峙することになる大物への対応を考慮した4番ロッドとしては強めの設計になっているため、若干重量があるのと、私の普段の釣りでは7フィートまでの竿を使用する釣り場がほとんどであること、バットの強い竿はあまり好みでないことから、本州での釣りにはあまり使用せず、もっぱら北海道での菊地さんとの釣りに使用していました。
特に十数年前に私が働きすぎで心身に不調をきたし、数カ月仕事から離れた際、療養のため菊地さん宅に長期間滞在し、二人でそれぞれのInfiniteを携えて何日間も連続で道南の渓流を釣り歩いたのは、私の一生の思い出です。
この竿は、菊地さんとの大切な思い出のつまった、前回のストロング・ガスティ以上に宝物です。
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