2018年6月30日土曜日

高太郎ロッド(その2)6'8" #4


 高太郎ロッドの2回目は、6フィート8インチ、4番、トンキンソリッドの竿をご紹介します。

 私は竹竿に関しては、ビルダーから直接購入することを基本としていますが、この竿は某フライショップから中古で入手したものです。
 しばらくオリジナルの状態で使用していましたが、釣りを終えてフェルールを抜く際に、誤ってフェルールの下のスネークガイドを曲げてしまい、またグリップのコルクがどういう訳か質の良くないものが使用されており、ラッピングのフィニッシュも薄すぎたので、つい先日ノースカントリーアングラーの加藤さんにリビルトしていたただきました。このブログの一番最後の写真以外は、すべてリビルト後の写真になります。
 加藤さんは、オリジナルを出来るだけ忠実に再現することを得意とされていますが、この竿は敢て、ラッピングの色をゴールド(黄土色?)からオリーブに、グリップの形も少し変えていただきました。
 グリップの形はほんの少し変更しただけなのですが、それだけで随分印象が変わって見えるので、面白いものです。


 この竿は6フィート8インチと短めの竿ですが、決して藪沢で近距離を釣るためだけの竿ではなく、高太郎さんの竿らしく、開けた渓である程度ラインを出して釣ることも想定された竿になっています。
 前回ご紹介した7フィート、4番ほど力強いラインは投げられませんが、近距離から遠距離まで、少ない力できれいなループの力強いラインを投げることができます。


 高太郎さんは、テーパー設計にギャリソンのストレス計算を使用されていなかったのですが、一緒に釣りをした際、私がストレス計算の話をしたところ興味を持たれ、当時新作であったこの竿のテーパーを教えてもらい、ストレスカーブを逆算させていただいたことがあります。
 高太郎さんは、とにかく投げて削ってを繰り返して、ロッドテーパーを煮詰めていく方でしたので、他のビルダーの竿のテーパーを参考にしたりすることはなかったのですが、計算の結果、この竿が局所的に強い箇所や弱い箇所のない、非常にきれいなペインによく似たストレスカーブを持っていることが分かりました。
 ストレス計算を使用しなくても、良くデザインされた優れた竿は、きれいなストレスカーブを描くのだと実感しました。

 私は、前回ご紹介した7フィートの竿の方がより私好みのアクションであり、また優れた竿だと思いますが、6フィート8インチ、4番というスペックは、私が良く行く渓流で非常に使い勝手の良いスペックなので、これからも朝間ロッドの6フィート9インチ同様に、愛用すると思います。


2018年6月24日日曜日

高太郎ロッド(その1)7'0" #4H


 今回は、九州久留米のビルダー井手高太郎さんの7フィート、4番、ホロービルドの竿をご紹介します。

 井手さんには、この竿をオーダーする前にもイベントでお会いする機会が2回ほどあり、また当時毎日のように更新されていたブログを読んで、竿作りの姿勢に共感するものがありましたので、いつかは竿を作って欲しいと思っていました。
 この竿を作ってもらうにあたっては、大雪の湯原温泉虹鱒釣り場で私のキャスティングを見ていただき、私が好きなサマーズの735を振っていただいたり、どんな釣りをするかを説明しました。そのため、この竿は、短いリーダーで抵抗の大きいドライフライを多用する私の釣りに合わせて、標準のテーパーよりもティップがわずかに太い特別仕様になっています。


 高太郎さんは、とにかくキャスティング性能(単に遠投という意味ではありません)に拘って竿をデザインしておられたので、この竿も極めて優れたキャスタビリティを有しています。
 この竿はトンキンのホロービルドなのですが、一般にホロービルドの竿の弱点として、反発力が上がってラインスピードは上がりますが、ラインのトルクが落ちる、大きな魚を掛けた時に粘りがないということが良く言われます。この竿では、この弱点を克服するために、ブランクの断面において、くり抜いた分の面積を外側にプラスする方法でテーパーがデザインされています。そのため、この竿を振ってもあまりホローの竿という感覚がなく、スローラインでもトルクのあるラインが出ます。

 話は少し脱線しますが、フライロッドやキャストされたラインに対し、トルクという表現がしばしば使われます。ソリッドのバンブーロッドはトルクがある、トルクのあるラインが飛ばせるが、ハイモデュラスのグラファイトロッドはトルクがない、トルクのあるラインが飛ばせないといった表現が用いられます。
 自動車のエンジンに例えると、バンブーロッドは低速トルクの太い大排気量の低回転型のエンジン、ハイモデュラスのグラファイトロッドは回転数でパワーを稼ぐ高回転型のマルチシリンダーエンジンと考えるとイメージしやすいと思います。
 私は工学系の技術者の端くれとして、フライロッド、フライキャスティングにおけるトルクという表現を、物理学の原理原則に基づいて、物理定数を用いて説明したいといつも思うのですが、いまだ上手く説明できずにいます。


 話を高太郎ロッドに戻します。この竿はホロー構造の独自の工夫とテーパーデザインにより、本当に力強いラインをキャスティングすることができ、リーダー、ティペットの先のフライまで完全に力を伝えることが可能です。そのためサマーズの735と同様に、キャスティングしていて、本当に気持ちの良い竿です。
 高太郎さんは、バットを上手く使えるように竿をデザインしているので、このことも少ない力で力強いラインが投げられる要因の1つになっていると思います。この竿を振っていると、竿全体がうまく仕事をしているのを感じます。


 バットがしっかりした竿が好きな人には、不向きな竿と思いますが、私のキャスティングスタイルに合っていることもあり、近くの川から北海道まで、一時期はこの竿ばかり使って釣りをしていました。今でも、私のお気に入りの竿の中でも特に好きな竿のうちの1本です。


2018年6月17日日曜日

朝間ロッド(その3)7'3" #3/4


 今回は、朝間ロッド7フィート3インチ、3、4番をご紹介します。
 この竿は、これまでご紹介した2本の竿とは異なり、オーダーメイドではありません。朝間さんは、オーダーメイドで作製するものとは別に、プロトタイプの竿などを年に数回、自身のウェブサイトで販売されているのですが、この竿はスペック、コスメが私の理想とするものにドンピシャだったので、おもわずライズしてしまったものです。


 この竿はトンキンソリッドですが、当時朝間さんが新たにテストされていたカーボンフェルールが使用されており、2.5ozと非常に軽量です。また、朝間さんの説明では、パラボリックアクションとなっています。


 さて、カーボンフェルールの効果ですが、実際に使用するとメタルフェルールやバンブーフェルールと比べて、これでないといけないと言えるほど明確な差があるわけではありません。しかし、軽量であることフェルール自身に柔軟性があることについては、確かにメリットがあり、キャスティングしてみるとワンピースの竿のような独特のフィーリングがあります。
 前回ご紹介したパーペキショニストも、十分軽量な竿なのですが、パーペキショニストから持ち替えると、この竿の軽さを明確に感じとることができ、とにかく1日中釣りを続けても本当に楽ちんです。


 この竿はパラボリックアクションとなっていますが、いきなりバットから深く曲がるわけではなく、ティップは繊細でラインの負荷に応じて曲がりの起点が変化するプログレッシブアクションですので、近距離から遠距離まで少ない力できれいなループを作ることができます。
 私は、近距離でも少ない力で竿が曲がってくれた方が良いので、この竿をWFの4番で使用していますが、おそらくDT3番でも全く問題なく使用できると思います。
 この竿の唯一不満な点としては、グリップが細すぎることくらいでしょうか。


 7フィート3インチという長さは、以前フリースのKatana 735のところでも書きましたが、バンブーロッドでは非常に使いやすい絶妙な長さで、しかも私が最も多用する4番ラインですので、どんな渓でも1本の竿で通そうと思うと、この竿は今の私にとっては、極めて理想に近い竿と言えます。

2018年6月10日日曜日

朝間ロッド(その2)7 1/2' #4


 前回ご紹介したT694には、同時期に作製された兄弟竿とも言える竿があり、それはAlckemy Tackleの川嵜さんがオーダーしたものでした。その竿はポール・ヤングの名竿、パーフェクショニスト、7フィート6インチ、5番を、日本の渓流に合わせて4番ライン用にパワーダウンしたもので、あまりの出来の良さにオリジナルの名前をもじって、「パーペキショニスト」と名付けられていました。
 ある日、川嵜さんと一緒に釣りをした際、パーペキショニストを短時間使わせていただき、すっかり気に入って同じものをオーダーして出来上がったのが、今回ご紹介する竿です。

 オリジナルのパーペキショニストには、何年間も寝かせた良質なトンキンケーンが使用されていましたが、この竿をオーダーした時、朝間さんは良質なトンキンの入手に苦労されており、同じテーパーでは同じアクションが再現できず、かなり試行錯誤されたようです。


 私はヤングのパーフェクショニストを振ったことがないのですが、この竿を使ってみると、パーフェクショニストが名竿と呼ばれる理由が理解できます。
 極限まで贅肉がそぎ落とされたテーパーにより、7フィート6インチという長さにも関わらず、持ち重りはなく非常に軽量で、シャープなアクションです。繊細なティップと太目のミドルは、近距離でティップだけを使った正確なキャストを可能にしており、細身のバットは見た目からは想像できないパワーを持ち、楽々と遠投が可能です。

 私が良く通う中国山地の渓流は、両岸から張り出した木々が上空を覆っている小規模な川が多く、7フィート以下の竿が使いやすいのですが、開けた渓流で釣りをするのであれば、この竿は正にパーフェクトで、至近距離から遠距離まで自由にラインをコントロールすることが可能です。


 朝間さんは様々なタイプの竹フェルールを作製されていますが、この竿にはフリースのFIBHと同じ構造のフェルールが用いられています。朝間さんのFIBHタイプのフェルールは、フリースのものと比べ雌フェルールが肉薄ですっきりとした仕上がりになっています。


 7フィート6インチ、4番のこの竿と、前回ご紹介した6フィート9インチ、4番の2本あれば、私が釣りに行く渓流のほとんどがカバーできてしまうのですが、この竿を入手後も、理想の竿を追い求める果てしなき旅は、まだ続くことになります。



2018年6月2日土曜日

朝間ロッド(その1)T694


 ボブ・サマーズからの流れで、北海道のビルダー朝間さんの竿を今回から数回に渡り紹介したいと思います。

 朝間ロッドの存在を知ったのは、2007年に渡渉舎から出版された「バンブーロッドのいま」でした。ヤングの竿に影響を受けたとの記述を読んで興味を持ち、朝間さんのブログを探し当て、すべての投稿を遡って読んだ結果、朝間さんが私が釣りに行くのと同じような渓で同じような釣り方をされていること、理想とする竿が私の好みに近いことを知りました。
 そして、私がどんな釣り場でどんな釣りをするのか、竿に求める性能、好みのアクション、作ってほしい竿のスペックを詳細に記述したメールを送り、完成したのが6フィート9インチ、4番のこの竿です。


 朝間さんは、トンキン以外にも真竹の竿も作られており、中空ロッドや、竹フェルールを始めとするさまざまなフェルールも作製されていますが、この竿は一番オーソドックスな、トンキン素材、メタルフェルールのソリッドロッドです。
 朝間さんはこの竿を「イワナ用のセミ・パラボリックアクション」と称されていましたが、サマーズ、ヤング同様の「Modified parabolic action」と呼んで差し支えないと思います。この竿は、朝間さんが函館近郊の渓流でイワナを釣るために設計された竿なので、サマーズのミッジ以上に日本の渓流で日本の鱒を釣るのに最適な竿になっています。
 ティップはサマーズのミッジよりも繊細で、至近距離で正確なキャスティングが可能です。6フィート9インチという長さは、頭上が開けていない狭い渓流で扱いやすく、かつ短すぎない絶妙な長さだと思います。


 朝間さんは、いろいろなコスメの竿を作っていますが、この竿は朝間さん自身が一番好きな、ヤングを意識したシンプルなタイプのもので、私の好みのコスメでもあります。ブランクは拭き塗りで、ガイドラッピングは初代ヤングの竿のように非常に狭い幅で巻かれています。サマーズの竿と違って、ブランクは真っすぐで、削りの精度も高いと思います。

 日本のビルダーの竿の中には、火入れが弱く曲がりが出やすいものがしばしば見られますが、私が所有している朝間さんの竿は、どの竿も適切に火入れされており、長く使っても全く曲がりが出ていません。ちなみに、フレームフィニッシュの竿は曲がりが出にくいように思われますが、どうもそうではないようで、火入れの温度や時間も影響しているようです。

 朝間さんの竿は大きく分けると、トンキンを使ったヤングの影響を強く受けたオーソドックスな竿と、真竹を使った中空ロッドに代表される斬新なアクションの竿の2つに分類されると思います。真竹の中空ロッドは、非常に軽くて、真竹のしなやかさはそのままに、まるでグラファイトのようなロッドスピードの速い竿です。

 朝間ロッドの最大の特徴は、朝間さんの長年の釣りの経験に基づいた優れた実用性だと思います。また、朝間さん自身、非常に研究熱心であるとともに、自分が納得のいかない竿は決して販売しない方なので、非常に良心的で信頼できるビルダーだと思います。