2018年4月28日土曜日

中村羽舟(その1)真竹、7尺7寸 3番、4番


 今回は中村羽舟さんの真竹、7尺7寸、3番、4番をご紹介します。

 11年前、私は仕事の関係で群馬県の前橋市に住んでいましたので、桐生の羽舟さんの工房を訪問し、この竿を作ってもらいました。

 羽舟さんは、基本的に自分の作りたいものや、顧客の注文に応じて、毎回異なるスペック、テーパーの竿を製作されていましたが、この7尺7寸(およそ7フィート7インチ)、3番、4番の竿が、私が初めて羽舟さんの工房の訪問した当時の標準スペックになっていたようで、初めて羽舟竿を注文される顧客には、まずこの竿をお勧めされていたようです。
 ちなみに、7尺7寸という長さの理由は、パチンコが好きなので7という数字が好きだからとおっしゃっていました。

 7尺7寸、3番、4番の竿には、ティップアクションとパラボリックアクションの2つのモデルがあり、私の持っている方は、ティップアクションのモデルです。もう1つのパラボリックアクションのモデルは、羽舟さんは本調子と呼んでいました。
 2つのモデルを羽舟さんの工房の前でラインを通して振り比べ、ドライフライの釣り上がりに適している、こちらのモデルを選択しました。

 

この竿に使用されている真竹は、トンキンに比べパワーファイバーが細く、極表層を除いて疎らに分布しているのが特徴で、そのためフライロッドに仕上げた時に、非常に軽く、しなやかな竿になります。この竿も7フィート7インチという、3番、4番指定の竿としては長めのスペックにかかわらず、非常に軽く仕上がっており、トンキンケーンの竿しかご存知ない方は、手に取ってその軽さにまず驚かれると思います。
 また、繊維が非常に繊細なので、ブランクの表面の見た目も、女性的と言いますか、真竹独特の非常にきめ細やかな印象を受けます。

 羽舟さんの真竹の竿の特徴は、素材の特徴、極細のティップ、全体に細身のテーパーデザインが相まって、他のどんな竿にもないしなやかさです。例えるなら、へら竿のような感じでしょうか。羽舟さんは、へら釣りを永い間楽しまれていたので、へら竿のようにしなやかで、きれいな弧を描く竿を理想とされていたようです。
 これだけしなやかさな竿にもかかわらず、意外にも張りがあるのは、真竹の持つ素材の軽さによるものと思われます。
 
 
 そのしなやかさは、ファストアクションのグラファイトロッドに慣れた方には、おそらく上手くキャスティングができないほどなのですが、コツとしては、とにかく力を抜いて、竿を振りすぎないことです。
 どんな竿でも、その竿の持つロッドスピードに合わせてキャスティングするのが、フライキャスティングの重要なポイントの1つですが、羽舟さんの竿は全く力を加えなくても、竿が自動的に曲がってラインを伸ばしてくれますので、力を抜いて最小のストロークで竿のリズムに合わせて竿をゆっくりと動かすことです。
 
 この竿の場合は、プログレッシブなティップアクションなので、近距離ではほとんど竿を振らずに正確なキャスティングができ、ラインを伸ばしていくと、まるで生き物のようにラインが伸びていきます。
 
 

また、魚を掛けた時は、竿の曲がりが魚の引きにしなやかに追従するので、ヤマメ、アマゴ特有のローリングに対してもバラシが少ないように感じます。


 羽舟さんの工房には、私が前橋にいる間に何度もお邪魔して、その度に工房にある竿を片っ端から振らせていただきました。当時羽舟さんはまだフライフィッシングを始められておらず、フライキャスティングもできなかったので、私がキャスティングするループの形や竿の曲がりを見て、その竿の出来を判断したり、改良点を探しておられたようです。

 羽舟さんの工房を訪問したときは、ついつい話し込んでしまい、日が暮れるまでお邪魔してしまうことが多かったのですが、いつも訪問の度に作業の手を止めて、いろんな竿を次から次に出してきては振らせていただいたり、竹の種類による特性の違いや、竿作りの話、へら釣りや鮎釣りの話、若い頃のいろんなお話を聞かせていただきました。
 私も恐縮して、作業のお邪魔ではないですかと、毎回お聞きしていましたが、いつも笑って、職人は孤独だから、訪ねて来てくれると嬉しいとおっしゃっていただきました。

2018年4月21日土曜日

Bjarne Fries(その4)Katana 763


 フリースのKatanaシリーズは、前回のKatana 633で終了する予定だったのですが、Katana 763についても紹介してほしいというリクエストがありましたので、今回はKatana 763を紹介したいと思います。

 この竿は私が初めて入手したフリース竿です。それまでフリース竿は、菊地さんのKatana 735しか実際に手にしたことがなかったのですが、この竿が届いた時はKatana 735以上の衝撃を受けました。

 バンブーロッドで7フィート6インチの3番というスペックは、日本のビルダーの竿ではポピュラーですが、私はかなり難しいスペックだと思っています。バンブーロッドはブランクの比重が高いので、低番手の長い竿だとラインの加重よりも竿の自重で竿が曲がってしまいます。7フィート6インチ以上の3番ロッドの多くは、この問題が解決できていないと思います。
 最近は比重の軽い真竹を使用することにより、この問題を解決した竿も見られるようになってきましたが、トンキンケーンの場合ですと、一般的に無理のない長さは、3番で7フィート、4番で7フィート6インチ、5番で7フィート9インチまでで、これを超える長さになると、テーパーデザインが非常に難しくなってくると思います。

 昔の日本のビルダーの竿では、ライン番手に対しティップが太く、かつミドルが細いものが多く、竿の自重でミドルまで竿がボテボテと曲がってしまう竿が散見されました。Katana 763は、限界まで贅肉をそぎ落としたテーパーデザインによってこの問題を解決しており、恐ろしいくらいに細いティップと相対的に強めのミドルセクション、テーパーが緩やかで細いバットセクションを持っています。
 このようなテーパーデザインは、実はPaul YoungのPerfectionistで既に実現されていたのですが、フリースのKatana 763は、Youngのデザインを更に突き詰めた設計となっています。


 Katana 763を初めて体験する方は、まず手にとってその軽さに驚き、一振りしてそのシャープさに驚かれると思います。そしてラインを通してキャスティングすると、しなやかなのにシャープなアクションに驚かれることと思います。

 ただ、私はKatana 763にも僅かに弱点があると感じています。15mくらいまでのキャストでは全く問題ないのですが、それを超えると、その極端に細いティップが災いして、軽度のテーリングループを起こしやすい傾向があり、この修正に若干気を遣う必要があります。
 ちなみに、Katana 704、735、633では、意識しないでキャストしても、テーリングは生じません。


 この頃までのフリースロッド(ロッドケースの蓋がオスねじになっていた時代)は、塗装も非常に薄く、細部まで細かく神経の行き届いた仕上がりで、研ぎ澄まされた将に日本刀のような佇まいを醸し出していました。この後入手したKatana 704あたりから(FIBHを発明した頃から)、塗装も若干厚くなり、ある意味おおらかといいますか、一見美しい仕上がりなのですが、初期の研ぎ澄まされた美しさは失われていったように感じます。
 ただ、これは私の好みの問題ですし、釣り場での様々なリスクを考えると、塗装もある程度厚い方が安心ですので、その後のフリース竿の方が美しい、好ましいと思われる方も多いと思います。そして、何よりビヤーネ本人は、その時一番自分がベストと思うものを採用しているので、後期のフリース竿の方がベストと考えていると思います。

2018年4月14日土曜日

Bjarne Fries(その3)Katana 633


今回は前回のブログで予告した、オリジナルKatanaシリーズの末っ子、Katana 633をご紹介します。

 Katana 633のスペックは、名前の通り長さが6フィート3インチですが、指定ラインはオリジナルが3番、4番指定、後にテーパーが変更されて、2番、3番指定になります。私がこの竿をフリースにオーダーした時は、すでに2番、3番指定になっていたのですが、この竿はオリジナルの3番、4番指定で製作してもらいました。私の感覚では、4番ラインがぴったりだと思います。

 Katana 633のテーパーデザインは、基本的にはKatanaシリーズの他のモデルと共通のコンセプトなのですが、シリーズの中で最もスローテーパーになっています。具体的には、同じ4番ライン指定のKatana 704と比べると、竿が短いので当然バットは細いのですが、ティップが太くなっています。
 竹竿に限らず、フライロッドは短くなればなるほど同じ設計では硬くなってしまうので、竿の長さによって竹竿の場合だとテーパーを調整する必要がありますが、Katana 633の場合はティップを太め、バットを細めのスローテーパーにすることにより、ロッド全体を曲がりやすくして、近距離でも竿が十分に曲がるように設計させているのだと推測します。


 さてKatana 633のアクションを一言で表現すると軽快そのものと言えます。短い竿にありがちな硬さはなく、その短さ、軽さと相まって、まるで竿が手の延長になったかのような感覚を味わえるので、キャスティングが非常に楽しい竿です。
 また、非常にコンパクトなグリップ、細いバット、軽さから、ラブリーという表現がぴったりの竿です。

 この手のミッジロッド(短竿)は、藪沢専用と思われる方が多いと思いますが、実はそうではありません。もちろん、その短さを活かして藪沢で使用しても良いのですが、どちらかというと、開けた場所である程度ラインを出して釣るのに適した竿だと思います。
 ミッジロッドはその短さをカバーするため、竿全体を使ってキャスティングするように設計されたものが多いので、Katana 633もKatana 704など他のモデルに比べると、藪沢で多用されるティップを使った近距離のキャスティングがやや苦手です。
 また、短い竿はその短さ故に、アキュラシー、トリックキャスト、合わせ、魚を掛けてからのやり取りの点で、通常の竿よりも不利なのは致し方ないのですが、そのハンデを釣り人の技術でカバーしつつ、その圧倒的な軽さ、軽快さ、キャスティングの楽しさを味わうのが、ミッジロッド好きの真骨頂なのだと思います。




2018年4月7日土曜日

Bjarne Fries(その2)Katana 735


 ビヤーネ・フリースの第2回目は、オリジナルKatana3兄弟の長男、Katana 735、7フィート3インチ、5番です。

 この竿は私の釣りの師匠、北海道の菊地さんのシグニチャーモデルと言っても過言ではなく、私にとって菊地さんと言えばKatana 735、Katana 735と言えば菊地さんです。
 私が菊地さんに初めてお会いし、一緒に釣りをしたのは1997年の7月でしたが、道南のとある渓流で釣りを開始早々、菊地さんがKatana 735に7フィートそこそこののリーダー、ハックルを縦に巻いたキャッツキルスタイルの#12のフライを使い、大場所で25m近い遠投で27cmほどのヤマメをキャッチするのを目の当たりにし、度肝を抜かれたのを今でも鮮明に覚えています。

 この竿も前回紹介したKatana 704と同様に、近距離ではティップを使った正確なキャスティング、ラインが長くなるとバットを使って楽にロングキャストが可能な竿です。

 道南の渓流では、同じ河川の同じ区間で、新子ヤマメから時には40cm、50cmを超えるアメマス、ニジマス、ブラウントラウトまで釣れる可能性がありますし、小さな渓流でも、しばしば20mを超えるロングキャストが要求されるポイントに遭遇しますので、5番指定のこの竿がとても頼りになります。
 5番ロッドだと、本州の渓流ではオーバースペックではと思われる方も多いと思いますが、この竿は一般的な5番ロッドに比べてティップが繊細ですので、釣れる鱒のアベレージがせいぜい20cmほどの本州の渓流でも、意外と楽しめます。

 7フィート3インチという長さも絶妙で、5番のバンブーロッドの場合、7フィート6インチだと1日振り続けるには少し重いですし、7フィートだとちょっと短いですが、Katana 735はその贅肉をそぎ落としたテーパーデザインと相まって、1日中軽快に釣りを続けることができます。


 私がフリースにオーダーしたKatana 735は、ティップセクションとバットセクションが同じ長さですが、初期のモデルは、ティップセクションの長さがバットセクションよりも長い、ワン・アンド・ハーフです。ワン・アンド・ハーフの初期のKatana 735の方が、全体に張りがあり、僅かにファストアクションです。
 

 Katanaシリーズの低番手で長めの竿、例えば私の持っている竿ですと、Katana 763などは、極細の超繊細なティップを持ち、3番でこの長さの竹竿でこれほどシャープかつ繊細な竿ができるのかと驚かされる、Katanaシリーズのテーパーデザインの利点が良く表れた竿ですが、このKatana 735はKatanaシリーズの特徴が最も良く表現された、Katanaシリーズを代表する名竿だと思います。

 ヤマメ、アマゴ、イワナのドライフライの釣りで、最も実用的な竿は、前回紹介したKatana 704だと思いますが、北海道にお住まいの方など、しばしば大きな鱒が釣れる可能性があったり、ロングキャストを多用する方には、Katana 735をお勧めします。

 次回は、Katana3兄弟の末っ子、Katana 633をご紹介したいと思います。